ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
2020年度上半期ネットドラマの“顔”作品『伝聞中的陳芊芊』
ネットドラマ『伝聞中的陳芊芊』の誕生
最近、Tencentにて配信されたラブコメ時代劇『伝聞中的陳芊芊』(24話、直訳:伝説のチン・チェンチェン、略:陳芊芊)は多くの注目を集め、2020年度上半期において、最もヒットしたネットドラマとなった。『陳芊芊』の豆瓣評分の評価は7.4点に達し、ドラマ再生回数1位を10日間維持し、微博における話題の閲読数は51億に上り、ドラマランキングの1位に至った。
ストーリー
三流脚本家である陳小千(チェン・シャオチェン)は自分の脚本に吸い込まれ、死が予定されている「脇役」の陳芊芊になる。自ら書いたストーリー故に、物語の展開と、ヒーローである韓爍(ハン・シゥオ)が腹黒であり、花垣城に入る本当の目的は婿入りではなく、潜入して城を奪おうとしているのということを知っている。
神の視点から最終話まで生き残れるように、様々な手段を使い、爆笑行動を連発する。ところが、あまりにも韓爍に媚びすぎたため、彼は自分に惚れたのかと勘違いをしてしまう。やがて、すれ違っていた二人の気持ちは、お互いに徐々に変わっていく…
『陳芊芊』がヒットした4つのポイント
人気ジャンル「甜寵劇」
「甜寵劇」(ティエンチョンゲキ、直訳:甘く寵愛がすぎるドラマ)とは、ドロドロとした展開がなく、最初からお互いに一途で、主人公カップルはずっとラブラブな甘いラブロマンスドラマのことである。他の男女の脇役は、恋愛の第三者として登場することが少なく、親友か仕事のライバルという場合が多い。かつて流行っていた韓流ドラマのドロドロ感と違い、ストーリーにあまり悪役が登場せず、爽やかで明るい作風であることが基本である。『お昼12時のシンデレラ』(2014年)、『シンデレラはオンライン中!』(2017年)など、かつても似たようなドラマは存在していたが、2018年に大ヒットした『寵妃の秘密」を契機に「甜寵劇』と呼ばれるようになり、人気ジャンルとなった。
ところが、市場において、一つのジャンルが流行すると、すぐに類似作が次々と制作されることになる。キャストを問わない甜寵劇の制作費は低く、内容が甘ければ“何はともあれ”需要があるため、2019年には数多くの甜寵劇が制作&リリースされた。2019年の夏休みに放送される「親愛的、熱愛的」(原題)でピークに達し、その後にも続々とリリースされたが、唯一話題になったものは「陳芊芊」だけであった。その理由として、「陳芊芊」は“甜寵劇”かつ、“コメディ色”を強めたからだろう。
定番に反して、予想不可能な展開“反套路”ドラマ
『陳芊芊』は以前にも紹介した「反套路」ドラマである。「套路」(タオルー)とは決まった展開のことであり、定番の展開と言える。『陳芊芊』における「反套路」は定番に反し、想像もできない展開で意外な面白さとコメディ色を強めた。
ストーリーで紹介した通り、陳芊芊は自分が書いた脚本に吸い込まれるため、ストーリーの展開をすべて熟知している。それゆえ、彼女は周囲から“不思議ちゃん”と認識され、予想外の振る舞いをする。そのほかにも斬新な設定が多々あり、作品の面白さを増している。
韓爍は入城の初日に、あまりの“美しさ”に陳芊芊を堂々と街でお持ち帰りしようとする(もともとの婚約相手は城主としての跡取りとである陳芊芊の姉)。持病によってすでに死の寸前だと言う韓爍に、陳芊芊は「ならば暖かいうちに、さっさと綺麗に洗って私の部屋に運びなさい!」と命じた。
韓爍が花垣城に潜入しようと企むもう一つの目的は、伝説の宝物「龍の骨」を探し出し、持病を治すためであった。前数話の下地としては、龍の骨は花垣城に代々伝わる宝物であり、物語上重要な「キーアイテム」かと思いきや、脚本家としての陳芊芊は宝物の保管の場所を知っており、第5話において、苦もなく取り出し韓爍に飲ませた。
現代社会が求める「爽劇」
「爽劇」というのは、主人公が「ラブ&ピース」精神で虐めに遭っても善意で返すようなものではなく、やられたらやり返す、敵を一人ずつ倒すような爽快なドラマである。最近ネット上では、かつてドラマで流行したどんな悪意も受け入れ、反抗せず、寛容な主人公を「聖母(聖人)」と呼び、揶揄されるキャラクター設定となる。日本では「半沢直樹」が代表的な「爽劇」であると言える。近年、社会では日常生活でのプレッシャーが大きいためか、中国で流行しているネット小説のほとんどが「爽文」作品である。つまり、ネット小説から実写化される中国ドラマでも「爽劇」作品が増えている。
また「女頻」というジャンルは、女性向けという意味である。以前紹介した『慶余年』は代表的な「男頻爽劇」であり、2018年にヒットしたネットドラマ『瓔珞〜紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃〜』は『陳芊芊』と同じく「女頻爽劇」だった。『陳芊芊』の「女尊男卑」という設定は、現実の「男尊女卑」に反して、女性にとっての爽快感を感じられる。
女性視聴者たちの注目を集める「女尊男卑」設定
『陳芊芊』の物語背景は架空であり、韓爍が生まれる一般社会「玄虎城」に対して、ヒロインが生まれ育つ「花垣城」は「女尊男卑」の男女逆転社会である。つまり、花垣城において、すべては女性が仕切っており、男性の地位が非常に低く、女性の付属品として生きている。花垣城に生まれる男性は教育を受ける機会がなく、出世する資格もない。男性にとって唯一の生き甲斐と使命は「主人」である女性を孕ませるだけである。
むろん、女性は夫を何人迎えても当然のことであり、男性たち日常的に嫉妬する。この設定によって、多くの爆笑ネタを生み出し、話題性を創り上げた。SNSでは、このような世界に生まれ変わりたいと、多くの女性視聴者からのコメントが殺到し、ドラマの知名度を一気に広げることになる。
現在、中国において、「女権」などの女性の権利について、よく提唱されており、とりわけ発言権を持ち消費能力も高い大都市のキャリアウーマンはそのような話題に敏感である。彼女たちの「夢の国」を描くことによって、口コミで作品は広がっていった。
中国市場では、女性視聴者が圧倒的に多いので、彼女たちの関心や注目を捕まえることができれば、作品の認知度も上昇しやすい。
上記の4つのポイントによって、『伝聞中的陳芊芊』は2020年半年度ネットドラマの“顔”となった。
これからも多くの「反套路」や「爽劇」がリリースされる予定である。こちらについても、また後ほどご紹介する。