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「閲文事件」から見る中国ネット小説の収益モデルの変遷

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はじめに

4月末、中国のネット文学・オンライン小説を主な事業とする大手企業である「閲文集団(China Literature)」は経営陣の変更を発表し、一部の作家は自身の持つ権利と収入について不安を覚えることになった。


発端は、あるオンライン作家たちが「閲文集団」と調印した際に「著作権ライセンス契約」内の気になる部分をソーシャルネットワークに送信し、この契約を「閲文集団」の経営陣の変更と関連付けたことにある。
これにより、オンライン文学の著作権を保護する方法及び、プラットフォームとオンライン文学作家の間のバランスの取り方についての議論が引き起こされた。


中国におけるネット文学の収益モデルの発展

中国ネット文学市場における既存の収益モデルは主に二つのタイプに分けられている。「掌閲」や「閲文」に代表される伝統的な「有料課金モデル」と、「連尚」や「米読」に代表される「無料での広告モデル」である。


業界のリーダーとして有料課金モデルを採用している「掌閲」と「閲文」の傘下では、豊富なネット文学・オンライン小説のプラットフォームがあり、年齢、性別、その他異なるタイプの読者を幅広くカバーし、多様な読書方式(APP、WAPとウェブサイト)で読者の需要を満たしている。ユーザーの信用は高く、豊富なIPコンテンツでユーザーの人気を集めることに成功した。しかし、大きなユーザー基数を持つ反面、ユーザーの伸び率は次第に鈍化している。


これに対して、「無料での広告モデル」を採用し、新たにネット文学市場に参入した「連尚」と「米読」は、急速な伸び率で大量のユーザーを獲得している。「連尚」や「米読」のMUD(Monthly Unique Devicesの略、月当たりのAPPを使ったデバイス数)は業界のトップ10に入り、2019年2月までに、「掌閲iReader」及び「QQ読書」アプリは、それぞれ1.32億と0.82億のMUDを有し、業界第1、2位を占めた。


ネット文学等のデジタルリーディングユーザー内では、コアな課金グループは限られており、大多数のユーザーは無料プラットフォームや海賊版プラットフォームの利用に寄っている。 無料モデルの増加は、デジタルリーディング市場の拡大・推進を加速させている。


無料モデルの台頭

実のところ、2012年頃、スマートフォンの急速な発展に伴い、ネット文学市場はかつて「無料化」の波を起こし、「掌閲」などの代表的な有料プラットフォームも無料モデルを試行していた。当時の“無料”モデルは、プラットフォームが資金を提供し、助成金を出すことで、より多くのユーザーを獲得するというものであり、この“無料”モデルは、開始段階の結果は非常に良好であったが、長期的には明確な利益化に至ることはなかった。


近年、モバイルインターネットユーザーの人口ボーナスに乗り、無料モデルの台頭が著しい結果を示している。
また、デジタルリーディング市場全体のユーザースケールは拡大し、多くのロングテールユーザーを獲得、広告を通じてのマネタイズを実現している。


例えば、ニュースアプリ運営会社「趣頭条(Qutoutiao)」によって2018年5月に作成された独立アプリ「米読小説」は、“無料の読書+広告収入”モデルで急速に発展し、ネット文学市場では無視できない新興勢力になった。 「趣頭条(Qutoutiao)」の創設者である譚思亮氏によると、「米読小説」は6か月間に4,000万人の新規ユーザーを獲得したという。
中国のデータ分析会社「Quest Mobile」の情報では、2018年12月頃、「米読小説」の月間アクティブユーザー数(MAU:Monthly Active Users」)は、ネット文学プラットフォーム第3位に至った。


しかし、今後の無料モデルの更なる発展を実現するためには、ネット文学コンテンツの継続的な生産という問題を解決する必要がある。コンテンツ自体の質が悪ければ、たとえ短期間に多数の新規ユーザーを引き付けることができたとしても、長期的なユーザーの維持は難しく、広告でのマネタイズは実現できないだろう。


無料モデルが台頭する中、閲文集団の課題

無料モデルの台頭に応じて、伝統的な有料モデルプラットフォームからも、いくつかの無料リーディング商品・サービスをリリースするなどの対策が始められた。閲文集団も例に漏れず、既存の有料リーディングモデルに基づいて、2019年に一部の無料リーディングサービスの提供を試み始めたが、芳しい結果とはならなかった。


無料モデルの参入により、閲文集団のオンラインリーディング事業は衝撃を受けたが、IP(知的財産)版権運営の事業成績は目覚しく、注目を集めている。例えば、閲文のネット文学プラットフォームの代表的な小説『慶余年』は、2019年にドラマ化され、大成功を収めた(『慶余年』記事参照)。
また、閲文集団の2019年の財務報告によると、著作権運営事業の収益が初めてオンライン事業の収益を上回り、主な収益源となったことを示しており、閲文集団は2019年に83.5億元(約1391.67億円)の総収益を達成した。


そのうち、オンライン事業は前年に比べ76%から44.5%に減少したが、著作権運営事業の収益は2018年の19.9%から53%に増加し、前年比341%増を実現したという。


2019年、閲文集団は自社ネット文学プラットフォームの内、約160の文学作品を映画・ドラマ、アニメーション、ゲーム等のコンテンツへの翻案権を許諾した。最近では、オーディオブックの領域への展開を拡大している。
高品質なオリジナル文学作品という資源を多く持つ閲文集団は、今後、IP(知的財産)の収益化をより重視し、“有料リーディング等のオンライン事業+多元的な著作権運営”のビジネスモデルを整備及びグレードアップすることで、より多くの価値を創造することを目指す。


ライター:張ケン  監修:AKATSUKI


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