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2020年、社会現象レベルに達した異色の「オーディション番組」―――『乘風破浪的姐姐』

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『乘風破浪的姐姐』の人気

『乘風破浪的姐姐』(直訳:風に乗って波を乗り越えるお姉さん。略:『お姉さん』)とは、湖南衛視が制作し、6月12日に配信が開始された「オーディション」番組である。放送後12時間もしない内に、再生回数は1億を突破し、当日配信サイトであるMango TVの株価が1割増加、1週間後には156億人民元(約2,600億円)も増加した。
しかし、この異例の記録を残した『乘風破浪的姐姐』は突如アップされ、事前のリリースPRが一切なく、さらに微博のトレンドランキングがメンテナンスのため、一週間消失している時期にリリースされた(トレンドランキングは中国のドラマやバラエティ番組にとって重要なPR手段)。リリースから1週間で、微博の閲読数は110億PVを超え、豆瓣における評価は8.6点を記録、この内半分近くの視聴者は満点の★5評価を示した。


『お姉さん』とは

『お姉さん』とは30歳以上の女性タレントを30名集め、『Produce101』プロジェクト(韓国や日本の公開オーディション番組)のようなオーディション形式を通して選抜メンバーを決め、女性グループを結成する番組である。この30名の女性タレントは、中華圏のアイドルを初め、国民的女優、実力派歌手、元アイドルグループメンバー、人気司会者まで、デビューから最低7年、最長32年のベテランまでを網羅した人選である。


大物女性タレントばかり30名を一堂に集め、オーディション番組を開催するというのは一部関係者からは「狂っている」と思われるものだが、それぞれのファンが性別や年齢を問わず、視聴者各層をカバーすることに成功した。


この豪華メンバーにより、全国から注目度が高まったことで制作発表された途端一気に話題となり、制作側はトレンドランキングから取り下げることに尽力する。


一般的に制作側は手段を尽くしてトレンドランキングにキーワードをアップし、作品を広げようとするが、なぜ『お姉さん』は通常とは逆に取り下げようとしたのか。それは、制作側の強い求生欲(生き残っていく欲望)からの方策である。


中国では、「女性3人が一緒にいれば舞台劇ができる」という諺があり、女性が集まると厄介なことばかり起こるという意味を表す。


以前にも、同じく湖南衛視が制作した女性5名と男性2名のタレントを集め一緒に旅をするバラエティ番組『花児与少年』(花と少年)で、メンバー間の揉め事があまりにも多く、SNSでの話題としてよく議論されていた。


当時、ファンが自分の好きなタレントのためにネットで喧嘩とも取れる議論を繰り返し、広電総局に「消極的な番組は社会に与える影響が良くないため、慎むべく」と命じられるまでに至った。


今回は、女性を『花児与少年』(花と少年)の6倍である30名も集めたため、何か揉め事が起こるのではないかと、視聴者たちは興奮し、一部では「興風作浪的姑奶奶」(波瀾を巻き起こす姉貴)など別名で呼ばれることもあった。


このように“名場面”や“修羅場”が期待され、SNSで盛り上がりを見せたことで、『お姉さん』は制作発表からリリースまで、宣伝に関しては一切なく、ファンの口コミと拡散だけで今回の実績を残した。


オーディション番組事情

中国では以前からオーディション番組が流行しており、2000年代の『超級女聲』、『超級男聲』、『加油好男兒』など、芸能界に多くの新人を輩出し、クリス・リーなどビッグスターにまで成長したこともある。


その後、一度は流行の終息を見せたが、2018年、iQIYIが制作した『偶像練習生』(アイドル練習生)のヒットにより、再びオーディション番組ブームに火がつき、各社が『プロデューサー101』、『青春有你 2』(青春に君がいる)、『創造営 2020』など、多くのオーディション番組を制作した。今年の夏だけでも3つの番組が同時に制作され、視聴者は既に「審美疲労」に陥り始めている。


その上、番組に出演させる練習生が尽きてきたため、事務所に入ったばかりの歌もダンスも一芸もできないタレントが多くなってきていることも事実である。


顔だけで選抜を勝ち抜き、デビュー資格を獲得したタレントが他のタレントのファンに不興を買いネットで炎上したケースや経験があるタレントでも、アイドルとして育成されたため、音声修正が入らないと放送もできないといったことも過去にはあり、LIVEでのパフォーマンスが「事故現場」と揶揄されることになった。


もともとオーディション番組は素人や練習生が芸能界に入れるチャンス、あるいはデビュー資格を獲得するための番組である。ファンを引きつけるため、タレントはカメラの前で輝き、完璧なアイドル像や、流行のキャラクターなどを演じることが多く、ほぼ全員が同じような“テンプレート”に陥る傾向がある。


また、最初の頃は知名度がないため、制作側に振り回されるばかりで不公平な扱いをされても、反抗する勇気もなく、迫害される「弱小」、「可憐」なイメージをファンに残すことになり、その印象が以前から存在する「内定」や「裏事情」といった疑いを視聴者に与え、資本(事務所や関係性など)によって結果が左右されているという説が更に広がった。このような理由により、視聴者のオーディション番組に対する熱が徐々に冷めてきたのである。


異色の『お姉さん』

過去のオーディション番組に比べ『お姉さん』の参加者は全員デビュー済みであり、各分野のトップに立つほどのベテランや大富豪と結婚している者、すでに多くのファンを抱えている者、といったように最低でも生計に困ることがなく、それぞれが個性豊かなタレントである。


参加理由としては「自己挑戦」や「更なるヒット」、「再ブレイク」といった理由から番組に参加している。


そのため、初披露の舞台では、派手な衣装が全て自前のものであったり、自身専属のスタイリスト、メイク、ヘアメイク、アシスタントなどを連れてきたりとマネジメントの全てが「オールセルフ」である。


また、公平性に関しても、参加者たちの人選にはそのような心配がなく、逆に「資本(実力やバックグラウンド)がないと参加しないだろう」というコメントすら存在したほどである。業界で勝ち抜いてきた実績から参加者たちの実力と努力はすでに証明されている。


女優出身でダンスや歌が下手な参加者たちは、舞台で恥をかかないように、出演前からパーソナルトレーナーを雇ったり、ダンス教室に通ったりして準備を始め、初回放送から「音声無修正」と字幕が書かれた放送では、参加者たちは長いキャリアで積んだ舞台経験を活かし、各自のパフォーマンスを披露、他番組の練習生とは比べ物にならないほどの自信と実力を見せた。


その上、業界経験が長く、地位も高い参加者たちは、制作側との立場が“逆転”している一幕を見せ、今まで制作側に不満を持っていた視聴者にとって、胸のすく思いを与えた。


例として、自己紹介のVTRを参加者たちに頼む際、「自己紹介なんかいるの?私のことを知らないということは、この数十年間のキャリアが無駄だったということ?」と反発し、座り方の調整をお願いするときには「カメラを調整してくれない?私に調整させないで、気持ちよく座らせてもらっていい?」と断り、他にも「まさかこの年で他人と競争して、わけの分からない人に評価されるなんて」とコメントするなど、業界の“お姉様”としての地位を見せつけた。


審査員を担当するベテランプロデューサーが採点する際には、制作側がファンの替わりに理由を聞いたり、「個人的な見解である(私たちの思惑とは関係ない)」と字幕を書いたりして、制作側も求生欲を見せた。


最後に

『お姉さん』は配信されたばかりにも関わらず、2020年最も人気と話題をさらった番組と言えるだろう。今までにないグループ結成を目的とした『お姉さん』は未だグループ人数、グループの方向性、結成後の進展、選抜におけるルールまで何も発表していない。


恐らく制作側も、試行錯誤しつつ恐る恐る進めていくのではないかと思われる。


近日、湖南衛視は男性タレントバージョンの『披荊斬棘的哥哥』(困難を克服しながら前進するお兄さん)の制作を発表し、再び注目を集めている。

また、進展があり次第紹介させていただく。


ライター:Jenny  監修:AKATSUKI


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