コラム
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大注目のダークホース的IP『To the Moon』の魅力と妙味
インディーズゲーム『To the Moon』:マイナーの定番
『To the Moon』とは、中国系カナダ人の高瞰(Kan Gao)が運営するインディーズゲームスタジオ「Freebird Games」によって制作されたアドベンチャーゲームである。美術はピクセル絵スタイルで、ゲームクリアにかかる時間は約4.5時間。2011年にはWindows版、2017年にはスマートフォン版が公開された。そして、今年(2020年)1 月16日には任天堂Switchへの配信も始まった。すでに多言語に翻訳されており、世界中のプレイヤーから好評を得ている。
『To the Moon』のストーリーについては、近未来、「ジークムント社」(Sigmund Corp)はテクノロジーを駆使し人の記憶に入り、依頼人の望む夢を見せることで最期の願望を叶えるという仕事をしている。今回の依頼者は臨終の老人Johnnyであり、彼の最後の願いこそがタイトルでもある「月に行く」ことである。しかし、何故そのような願望を持つのかは、Johnny自身も覚えていない。EvaとNeilの2人の主人公はJohnnyの記憶に入り、彼の人生を辿り、そして記憶を紐解くことで、Johnnyの「月に行く」願望を叶える物語である。プレイヤーはEvaとNeil と一緒に、Johnnyの人生を追体験することで、彼とその妻Riverの切なくも感動的なラブストーリーを体感する。感動的なストーリーと美しい音楽を伴い、ピクセル風の画面にも関わらず、『To the Moon』は多くのプレイヤーを涙させる。
日中合作:劇場用長編アニメーション映画制作中
「Freebird Games」は「北京奥創視界」という中国企業と連携し、『To the Moon』の長編アニメーション映画の製作を計画した。中国側は主に資金面を担当し、製作は公表されてこそいないが日本のトップレベルの製作チームが担当するとのこと。原作の魂を失わないよう、高瞰自身も脚本の改編に直接参加する。また、「北京奥創視界」について、この会社のCEOは「君の名は」を中国に輸入した張本人あり、高瞰によると、『To the Moon』の長編アニメーション映画のプロジェクト予算は「君の名は」を上回るという。確かに、良い作品の製作には、潤沢な資金があればいいというわけではない。だが、潤沢な資金は良い作品の製作に一つの保障を提供できるだろう。今後、『To the Moon』の長編アニメーション映画化は、アニメーション映画業界のダークホースになると思われる。
高瞰と「Freebird Games」:ゲームを通して物語を述懐する
「Freebird Games」は高瞰が創立したインディーズゲームスタジオであり、高瞰個人の興味と感情に託し、インタラクティブな伝え方と音楽を通じて物語を述べている。「Freebird Games」は、既に『D.Y.R.M.Lullaby』、『Quintessence』、『The Mirror Lied』、『To the Moon』、『A bird story』、『Finding Paradise』という六つの作品を開発しており、『To the Moon』は「Freebird Games」の4つ目の作品で、初めて市販されたゲーム作品でもある。高瞰自身が『To the Moon』のゲーム監修、デザイン、音楽制作、イラストなど複数のブロックを手掛けた。才能のあるクリエイターとしての高瞰の魅力が、このゲームの人気を後押ししているといえよう。
また、ゲーム『To the Moon』の続編として『Finding Paradise』も2017年に開発され、ストーリーは同じく「ジークムント社」が新たな依頼者Colinの願望を叶える物語である。そして、2014年に発売された「Freebird Games」スタジオの5つ目の作品である『A bird story』は、少年時期のColinの物語をである。つまり、『To the Moon』はシリーズ化されている。
『To the Moon』と『Finding Paradise』は、二つとも高度なパーソナル化、スタイル化された作品である。ゲームの娯楽性を追求するのはもともと高瞰らの目的ではない。高瞰らはゲームを通じてストーリーを述べたり、感情を伝えたりするだけである。この目標は完璧に実現されているといえよう。