コラム
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中国映画興行収入史の第二位ランクイン!中国初のSF映画「流転の地球 (さまよえる地球)」とは?
約3.2億元(約52億円)の投資で、中国国内興行収入は約46.5億元(約744億円)!?
2019年、中国春節期間に7部の映画が同時に公開した。そのうち、5部は“喜劇映画+人気俳優”の流行りの組合せだ。流行りを追いかけない“SF映画+無名俳優”の組合せで創られた「さまよえる地球」は“異質”とも呼ばれる。
中国及び世界中の人々に期待されていない状況で作られた中国初のSF映画が米国紙「ニューヨーク・タイムズ」に記載され、「中国映画界の新時代の曙」「中国映画も宇宙競争に参入」といったような記事が多数書いてある。
30代の新人監督郭帆(グオ・ファン)はどうやって、3.2億元の低コストで高品質の大ヒット作を創れたのだろうか?
新人青春映画監督とSF映画・「流転の地球 (さまよえる地球)」の壁とは?
映画の大ヒット後、監督郭帆(グオ・ファン)がインタビューに出て、映画製作に一番大きな壁は「信じる」ことだと語った。
「すべての人に疑われて、“なぜ私はこの映画の監督になれる?”“一体私に何の才能がある?”といったような疑問がずっとあった。だから、長い時間をかけて、自分が信頼できることを証明しなければならないよ。」監督郭帆がインタビューのときに語ったことだ。
「さまよえる地球」以前の、監督郭帆の代表作はほぼ全て青春映画だった。例えば2009年の初の映画作品「李献計の冒険物語(李献计历险记)」と2014年に大ヒットした映画作品「デスクメートのあなた(同桌的你)」等。「デスクメートのあなた」の興行収入は4.561億元(約73億円)だった。
青春映画の監督がSF映画を撮るとは、誰も信じられなかった。しかし、監督郭帆は19歳の時から、ずっとSF映画の監督になりたかった。夢があるからこそ、疑いに対して諦めずに続けて行ける。監督郭帆は30分のダイナミックプレビューを作った。このプレビューを持って、出演者やスポンサーに一人ずつ、映画の構成を説明して、説得した。このように、製作前期の準備には2年の期間を要した。
3.2億元の投資と7000人の中国製作チーム
アメリカSF映画の1/10にも満たない予算で高品質の映画を作る為には、すべての予算をコントロールしなければならない。特に出演者のギャランティーだ。すべての出演者の中で、ギャランティーが一番高いのは香港俳優呉孟達(ウー・モンダ)の20万元(約320万円)であって、彼以外の全ての出演者のギャランティーは10万元(約160万円)以下だ。それに、脚本家へ支払った金額は3,000元(約5万円)で、平均120元(2千円)/千字だった。
もう一方で、コストをコントロールするには、製作の外注をできるだけ避けれなければならない。中国国内でSF映画専門の編集会社はほぼないため、ゼロから始めて、不信頼感を打ち破るには、完成品のイメージを相手に伝えなければならない。制作組が丁寧に3000枚以上のイメージボードと8000個以上のコンテを作り出すことで、ますます多くの人々の信頼を勝ち得てきた。最終的には、7,000人以上の製作チームができ、アメリカに負けないほどのCG合成が完成した。「さまよえる地球」の85%のCG画面は、中国の会社によって作られた。
主演者は本当に呉京!?「さまよえる地球」の主演者は一体誰!?呉京は一体何の役割?!
日本のネットメディアでは、“主演は中国版ランボーともいえる戦争活劇「戦狼」のヒーロー、冷峰役を演じた愛国演技派俳優、呉京(ウー・ジン)”の記載があったが、実は、主演者は香港俳優呉孟達(ウー・モンダ)と新人俳優屈楚萧(qu・chuxiao)であって、呉京は特別出演と映画の投資者である。呉京が特別出演から投資者になった背景にも、色々と面白い出来事があった。
映画撮影中、監督郭帆は呉京を誘って飲みに行った。呉京は酔っぱらった状態で「1日だけ特別出演として、映画に参加する」と約束をした。撮影現場に入ったら、あっという間に31日の撮影日が経過した。そこで、郭帆は、「予算が超えましたので、ギャランティーを払わなくてもよろしいでしょうか?」と呉京に聞いた。呉京が同意して、続けて撮影するうちに、万達が資本撤退した。監督郭帆は「映画撮影の経費がなくなったので、お金を投資してください。」と呉京に言った。映画撮影を続けて行く為に、呉京が6,000万元(10億円)を投資した。これで、呉京は特別出演から、投資人になった。
万達が資本撤退した原因は公開されなかったが、同じく春節公開予定の「情聖2」に投資した。「情聖1」は2016年の作品で、プロモーションがほぼない状態で6.2億元(約12.4億円)の興行収入を記録していた。「情聖2」の製作チームは「情聖1」とほぼ同じで、主演者だけが人気俳優呉秀波(ウー・シュウポー)と白百合(バイ・バイハー)に変わった。しかし、最終的には、主演者呉秀波(ウー・ショウポー)の不倫騒動により、自主公開中止した。
近年中国映画の変化・これからの中国映画はどうなる?
「さまよえる地球」はアメリカのSF映画とは違ったSF映画と呼ばれている。最も大きな原因は、アメリカのSF映画は個人ヒーロー主義を求めていて、「さまよえる地球」は中国の民族ヒーロー主義を求めながら、中国の家族関係を重視した。そして映画の画面にも、いろいろな中国を代表する物が現れた。例えば、上海の東方明珠電視塔、蘭州ラーメンの店舗等。これは中国のSF映画だ。
2017年の愛国代表作「戦狼2」、2018年の現実代表作「我不是薬神/我不是要药神(英語タイトルはDying To Survive、俺は薬の神じゃない)」、そして2019年のSF代表作「さまよえる地球」、この3つの映画作品は、中国映画市場を変える程の作品とも言えるだろう。以前から、主な映画作品は娯楽性が強く、投資の性質が高く、グローバル化を求めている。だが、この3つの作品は作品内容を重視する上に、中国人の為に創られていた。民族的な腕前を極めない限り、世界的に通用できるはずがない。これからの中国映画はどうなるのだろうか?
ライター:任杰 監修:AKATSUKI