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中国社会派コメディ映画「ニセ薬じゃない」の成功の裏

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中国社会派コメディ映画「ニセ薬じゃない」その成功の裏側とは?

映画の出資会社は元々10億の興行収入として予測していたが、最終的には「ニセ薬じゃない」は31億元の興行収入で2018年中国映画の3位を取った。その成功の裏には一体何があるのか?


中国コメディ映画ブランド「Dirty Monkeys」の冒険

 「ニセ薬じゃない」の製作会社の「Dirty Monkeys Studio」の前身は、寧浩(ニン・ハオ)監督の映画スタジオだった。寧浩は中国のコメディ映画を代表する監督である。


香港俳優アンディ・ラウが主導するアジア新人監督発掘企画に、寧浩が選ばれ、「クレイジー・ストーン ~翡翠狂騒曲~」というブラック・コメディ映画を作った。投資は300万元を受け、最終的な興行収入は約2500万元。2006年映画市場の一番意外な穴馬になった。第43回台湾金馬奨ベスト脚本賞、第12回中国映画華表賞の優秀新人監督賞、優秀デジタル映画賞、優秀映画技術賞などの賞を受賞した。華表賞は中国政府主催の中国映画において政府最高賞。その他多くの賞にノミネートされた。


寧浩はコメディ映画で次々と良い成績を残した。また寧浩監督の映画の中では徐峥(シュ・ヤン)氏は不可欠な存在になっていった。「クレイジー・ストーン ~翡翠狂騒曲~」での縁が最初で、今回「ニセ薬じゃない」は2人の5回目の合作だった。寧浩と徐峥は「ニセ薬じゃない」の監修プロデューサーを担当し、徐峥氏は主演でもあった。2人の会社も今回作品のメインの製作会社である。


2016年、寧浩氏が「Dirty Monkeys72変映画計画」を立ち上げ、12人の新人監督をサポートし始めた。その計画の第2弾として、新人監督文牧野(ウェン・ムーイエ)氏が選ばれ、制作した作品は「ニセ薬じゃない」だった。


元々寧浩氏が自分で「ニセ薬じゃない」の演出を担当する予定だったが、文牧野氏と出会い、文氏の方がよりヒーローロマン主義の考え方を持っていたので、この作品を彼に託した。「ニセ薬じゃない」にはDirty Monkeysが一番得意なコメディ要素も入れたが、主演徐峥氏は「この映画はコメディではない」とコメントした。


映画モデルの「陸勇事件」とは?

映画のモデルは2014年の「陸勇事件」。陸勇は割と裕福な家庭で育てられた。2000年以降、自分で起業し、事業もうまく進んだところ、慢性骨髄性白血病にかかった。


長年の治療で、貯金が半分以上になくなった時に、安価なインド産治療薬があることを知り、試してみると使用後数ヶ月で、効果があることが判明した。そして患者達が集まるQQ(テンセントのPCチャットソフト)のグループの中でこの薬を他の患者に紹介した。インドから薬を購入するには面倒な手続きがたくさんあり、陸勇は自分の英語能力を使って、他の方の購入を無償でサポートした。陸勇は患者の中では「薬侠」と呼ばれるようになる。


購入患者がとても多くなり、インド側から中国での銀行口座を作って、患者達の購入費を全部集めてほしいとリクエストがあった。陸勇が一番最初の購入者だったので、インド側は陸勇に連絡した。陸勇はネットで他人名義のデビットカードを3つ購入し、その中の一つだけが利用できた口座のネットバンキング機能を使って、患者達から購入費を集めて、インド側が指定する銀行口座に振り込んだ。


警察は違法他人名義のカード販売の調査で、陸勇のことに気づき、「ニセ薬販売罪」および「クレジットカード管理妨害罪」で陸勇を捕まえた。陸勇が助けた患者1000人が連署で陳情書を出した。


最終的に、陸勇は無罪という判決になる。理由として、陸勇はあくまで、購入者の代表、無償で購入者達をサポートしただけで、ニセ薬を販売していなかった。また他人名義のデビットカードの購入と使用についても、社会への被害が小さいため、無罪と判断された。


モデルの陸勇は映画の改編に苦情?

実際の事件では、陸勇は患者であり、1人でたくさんの患者をサポートした。映画の中では、演出を加え、よりドラマチック性を出した。


映画の主人公程勇は、元々インドの保健品を販売する店のオーナーだった。しかし、販売が上手くいかず、家賃も払えない。妻にも離婚された。ある日、慢性骨髄性白血病を患う呂受益が店に訪れた。今彼が使用している特効薬は、価額が高くて、インドでは同じ効果がある格安の薬品があると聞き、程勇に購入代行してほしいといったところから、ストーリーが始まる。


薬の代理購入のため、チームを作った。白血病の娘を持つポールダンサーの思慧は、たくさんの患者とネットで繋がって、購入者を集めてくれた。患者の劉牧師は、英語が得意で、インド側との連絡役として迎えられた。家族の荷物になりたくないので、家出したヤンキーの金髪白血病少年は、力仕事担当でチームに入った。


代理購入で大儲けしたところ、警察に目を付けられた。程勇は法的制裁に怯えて、代理購入をやめた。チームを解散した後に、程勇は工場を始めた。しかし、呂受益の病気が悪化し、自殺してしまったことをきっかけに、程勇の心が動いた。再度チームを結成し、仕入れ以下の価格で患者達に薬を提供し続けた。


最後、程勇はニセ薬販売罪で収監された。収監される途中、助けた患者達が道の両側で立って、護送車を見送ったシーンがとても印象に残った。


しかし、実際事件と映画の違いで、映画のモデルとなった陸勇も犯罪を犯したのではないかと誤解された。映画製作側も事前に陸勇さんと交渉し、演出面の改変について理解を得ていた。映画の上映会で、陸勇さんの前で、主演の徐氏が、「程勇の悪いところは全部自分のもので、英雄のところは全部陸勇のものです」と和解の言葉を話した。製作側は200万元を白血病患者に寄付した。


映画の最後でも描かれていたが、白血病の治療薬は医療保険の扱い薬リストに入った。現実世界でも、中国の医療改革で、新しい癌の治療薬は保険リストに入った。またこの作品のおかげで、さらに中国の医療改革が注目された。


現実主義の映画は審査を通る事が難しい?

韓国の現実主義映画「トガニ 幼き瞳の告発」、インドの現実主義映画「ダンガル きっと、つよくなる」を見た、中国の視聴者達は、「いつ中国の監督達もあのような社会問題を表現する映画を作れるのか」という声を上げた。


映画の審査基準が厳しい、表現できない内容が多いと思っている人も多いと思う。今回「ニセ薬じゃない」の上映の後に、よく審査を通れたねと言われたことが多々あった。映画の内容はセンシティブな内容だと思う。しかし、映画審査は表現する内容より、どういった価値観を表現するのかを審査する。映画の内容を見てみると、「ニセ薬じゃない」は、中国で主流の価値観とずれてはいないと思われる。


最後、法廷の審判で程勇は「自分が犯罪を犯したので、判決はどうなっても言う事はない。しかし、その患者達が可哀想だ。飲む薬がなければ、死ぬことになる。でも今後はもっと良くなると信じる。その日が早く来ると良いね。」というセリフもあった。


判決も、程勇は密輸罪、ニセ薬販売罪についての犯罪事実は明らかだが、患者達を助けたことを考慮し、5年間の懲役になった。その後、実際に懲役は3年に減刑された。法律はもちろん守らないといけないが、法律は人民のための法律なので、人情を考慮することもある。


映画の審査は、実は一つ一つの作品に対して審査をするので作品ごとに、審査を通る、通らないがある。ただし、今まで審査を通らなかった部分に対して、メディアが整理してできない内容をまとめたので、審査を通らない理由が整理された。ただし同じ行為でも違う場面では、違う意味を持つ事がある。創作者達のセンスにも関わる部分でもある。今回の映画をきっかけに、今後もいろんな新しいテーマの映画が現れるでしょう。


18年ぶりの中国現実主義映画の人気作

21世紀になって、中国の現実主義映画の興行収入はあまり良くない、2018年公開の中では、興行収入1位は、現代ストーリーの現実主義映画は4回しか取ったことがない。そして、興行収入1位を取った3作品は春節シーズンのコメディだった。しかし、豆瓣(レビューサイト)での評判は高くはなく6−7点程度で普通だった。


今回「ニセ薬じゃない」の豆瓣(レビューサイト)採点は9.0点、100万人以上が採点した。興行収入と観衆の評価、両方が良い成績を残すのは、難しいことだった。2019年4月の時点で「ニセ薬じゃない」は中国映画の総興行収入ランキングの6位で、31億元の興行収入を得ていた。


中国では現実主義映画は市場がないと思われていたが、「ニセ薬じゃない」はこの認識を破った。芸術と商業のバランスを保って、多くの中国観衆が受け入れられる手法で、深刻な社会問題を表現できた。


寧浩氏は新人監督達に対して三つの判断基準があるという。一つ目は個性、二つ目は創造性、三つ目はローカル性。「中国は欧米の成果から勉強するところもまだあると思うけど。勉強した後に、どうやってローカル性がある映画を作るのかは、これからの課題だ」とコメントした。今後も、もっと中国の新人監督達の活躍が期待できそうだ。


ライター:Kori 監修:AKATSUKI


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