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7.5億人民元(約125億円)投資のファンタジー映画「アシュラ」3日間で自主公開停止?

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上映開始3日で公開停止!?中国ファンタジー映画「アシュラ」

7.5億人民元(約125億円)を投資し、ハリウッドチームがCG制作に参加した、中国のファンタジー映画「アシュラ」は、わずか3日間の上映で、製作側自ら公開停止を行った。目標興行収入は30億人民元(約500億円)だが、実際の興行収入は5000万人民元(約8億円)にも満たない。一体何が問題だったのか?


中国でのヒット映画シリーズ「画皮 あやかしの恋」のチームが製作

「アシュラ」の製作会社は寧夏電影集団と真鑒影業。
映画の総合プロデューサーは楊洪涛氏。脚本担当、監修プロデューサー、プロデューサーは楊真鑒氏。楊洪涛氏は寧夏電影集団の法人代表。楊真鑒氏は真鑒影業の創立者だ。


寧夏電影集団はもともと国有事業単位(国が拠出して教育、科学、文化、衛生などの事業を進める公的機関であり、国営企業とは異なる)で寧夏電影製片廠から国営企業に変更し、設立された企業である。中国の多くの国有事業単位は、国営企業化した時期があった。寧夏回族自治区は中国西北部に位置する少数民族回族が自治するエリアである。寧夏電影製片廠はその自治区の映画、ドラマを製作する国有事業単位だった。


以前二人は中国で大ヒットした映画「画皮 あやかしの恋」シリーズを作った。その映画では、楊真鑒氏はアートディレクターとマーケティングを担当した。


2008年「画皮1」は8000万人民元(約13.3億円)の制作コストで、2.3億人民元(約38.3億円)の興行収入を獲得し、興行収入ランキング3位を取った。まだ寧夏電影製片廠時期の作品だった。その4年後、2012年「画皮2」は1.2億人民元(約20億円)の制作コストで、7.26億人民元(約121億円)の興行収入を獲得した。中国では初めて7億元(約116.7億円)を越えた映画になった。


楊真鑒氏は「画皮3」を作るのではないかと思われたが、楊氏は中国映画の技術はまだ足りない、ヒロインの狐が住める膨大な世界観を表現できないということを理由に、「画皮」シリーズを諦め、「アシュラ」を企画し始めた。


アリババ・ピクチャーズが投資?

日本のネットメディアではアリババ影業集団(アリババ・ピクチャーズ、Alibaba Pictures)がこの映画に投資したという情報が多いが、実際はアリババ・ピクチャーズ本体ではなく、アリババ・ピクチャーズの子会社の浙江東陽小宇宙影視伝媒有限公司が投資した。共同出資会社は合計20社におよぶ。


20社の中では、三十六計文化伝媒有限公司が一番多く投資した企業と報道されている。また張家豪氏がメインの責任者としたプレスリリースがよくネットで見られるが、企業情報の中では氏についての情報は見当たらない。また、報道では、楊真鑒氏と張家豪氏は2時間の会談で投資を決め、翌日、張家豪が資金を振り込んだと報じられている。


その他に、不動産企業が投資をする映像子会社、医療関係の企業など異業種からの投資があった。また「アシュラ」映画のファンドなども存在していた。


7.5億元(約125億円)は何に使った?

楊真鑒氏がインタビューで公開した情報によると、最初の予算は6億元(約100億円)、最終的にかかったコストは7.5億元(約125億円)。CG制作は全部北美のチームが担当し、2.25億元(約37.5億円)を使った。


「アシュラ」のCGを褒める記事は、ほとんどがSNSメディアの文章である。文章の中では、ハリウッドの名作映画の制作を担当したチームの名前が多く挙げられた。


楊氏は人民ネットのインタビューで、俳優の出演費の合計は総制作費の10%以下と発表。CGと俳優のコストは40%に当たる、3億元(約50億円)以下。また服装デザインも「ロード・オブ・ザ・リング」のデザイナーNgila Dicksonが担当した。そのデザイナーが現場で1年間働いて、服装デザインから制作までを行い、費用は3000万人民元(約5億円)がかかった。


東方ファンタジーを作るため、CG技術が一番重要?

「画皮」は当時“東方ファンタジー”という新しいジャンルを作った。ストーリーは中国の清代の短編小説集「聊齋志異」の「画皮」という内容からリメイクされた。中国で最も影響力の大きいレビューサイト「豆瓣(Douban)」での評価は10点満点中、「画皮1」は6.6点、「画皮2」は5.9点。興行収入は高いが、内容はそこまで評判がよくなかった。映画「画皮」のCG技術は当時の中国産映画の中では、かなり高いものと思われる。


今回の「アシュラ」は架空設定に近く、CGなどの制作はハリウッドチームが担当したが、一番重要なストーリーは中国のストーリーではない。“東方ファンタジー”というカテゴリの作品でアピールするが、見た目のデザインはハリウッド風の欧米系のファンタジーの様である。


「豆瓣(Douban)」では、3.1点(10点満点)の評価だった。全部のファンタジージャンルの映画評価の中では、その点数は全体の中の評価が0%の映画より(上位まで100%、中間までを50%とする)点数が高い。つまり、点数が最下位だった。アクションジャンルでも同じく最下位の評価だった。レビューの中では、ストーリーが良くないとのコメントも多かった。


映画と同時に撮影されたドキュメンタリーを見た観客がこういうコメントを残した。「制作チームがマネーロンダリングのため、映画を作ったと思った。7.5億(約125億円)の投資は絶対にありえないと思った。しかし、ドキュメンタリーを見て、考え方を変えた。本当にとても多くのお金を投資し、一所懸命に…ウンコ一粒を作った。」


あるコメントでは「この映画がもし2015年に上映されていたら、興行収入はこの程度ではなかった。その頃は、観客の映画に対する審美眼がまだない。内容を気にしていない、画面がただ綺麗な作品には価値があった。しかし、すでに観客たちは変わった。」


自主停止の詳細は未公表

2018年7月に上映された「アシュラ」はわずか3日間で公開を自主停止した。その理由は公表していない。自主停止する前に、「アシュラ」の公式ウェイボ(中国のTwitter)アカウントでは「ネットの悪評判は全部人為的で映画に泥を塗った」と発信した。また同時期にたくさんの良い映画が上映され、興行収入が良くならないので、自ら上映時間を変更するために一旦停止したのではないかというコメントのメディア記事もあった。公式ウェイボ・アカウントで「出資側が検討した結果、公開停止の結論に至った」と公表されている。しかし、映画に投資した会社の中では公式発表を見て、初めてその情報を知ったという報道もあった。再上映の予定は未定である。


同時期に上映された他の映画は、中国の映画史を変えた作品もたくさんあった。それについては、また次回で詳しく紹介する。


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