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中国制作のオリジナル近未来SFアニメ:『霊籠』

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はじめに

2020年7月31日、芸画開天が制作し、Bilibiliが共同制作・配信する3DCG近未来SFアニメ『霊籠:INCARNATION』(リンロン)の後半部(7~12話)が更新され、配信再開初日にも関わらず、Bilibiliの人気ランキング1位となった。


2017年、『霊籠』は17分のPVを公開し、BilibiliでのアニメPV最高再生回数記録を一気に破り、注目を集めたことで爆発的な人気を得た。この時、『霊籠』はBilibiliにおいて初のPVのみで“追番”数が300万を超えた作品となった(「追番」とは番組を追う、つまりフォローするということである。追った番組が配信・更新されるとプッシュ通知が届く)。


2019年7月13日から、『霊籠』の本編は多くの期待が集まる中配信され、1~6話の配信で再生回数が1.1億を記録した。今年、止まっていた更新が再開され、12話(S1は計13話の放送予定)までの再生回数は2.4億を突破し、追番数が540万、弾幕数は404万、コメント数は5万件を超えた。


『霊籠』とは

『霊籠』の背景と世界観は非常に広大で、近未来にあるサイバーパンクのような末世を描いた作品である。物語では、科学と医学の発達により、地球の人口は環境が耐えられる上限を遥かに超えてしまい、新しい世界への開拓を踏み出そうとしたところ、突然月が変異し、地球は数十年にもわたる地層の激変を迎える。地下からは「噬極兽」という怪物が湧き、人間の魂をエネルギーとして摂食し狩る。
魂を奪われた人間は殻だけを残し、石像のように石化してしまい、それは「肉土」と呼ばれた。肉土になった人間の脊椎は「脊蛊」という生き物に変異し、人間を襲って魂を吸う。そんな怪物が続々と出現・進化し、地球で新しい「玛娜生态」(マナエコロジー)が形成される。


「玛娜生态」で生まれた怪物は傷ついても再生する能力を持ち、人間の武器では殺されず、倒れても間もなく生き返る。一方、餌になってしまった人間はほぼ全滅の危機に陥った。しかし、怪物たちは地上でしか生活できなく、宙に浮かぶ元は監獄だったとあるトーチカがこの災いから免れる。トーチカに生活する人間は生き残り、トーチカのことを「灯塔」(灯台)と呼んだ。


ところが、末世で生き延びるため、灯台では人権を無視し、非常に厳しい法律を立て、「三大法則」を設立した。その内容は、①従来の家庭関係を無くし、人口を増やすために、データから計算されたDNAの適応性によって指定される相手と繁殖する。②灯台の住民は貨幣を用いずに、灯台への「貢献値」でほしいものと交換する。灯台に貢献できない人、または価値がない人は放棄される。(病人が癒されず、老人が地上に放逐される)。③住民はDNAの質によって「上民」と「塵民」に分けられ、塵民は名前すらもなく、番号だけ与えられ、肉体労働を強制され、食事は虫だけがもらえる。上民は治療権利、繁殖権利があるが、自由恋愛が禁じられ、生まれた子供たちは親の元で育てられることができず、灯台で養育される。


灯台は農業や畜産などは自給自足できるが、科学物と医療品に欠け、とりわけ灯台の運航を維持できるエネルギーを生産できない。一旦エネルギーが切れると、地上に落ちる可能性があるため、灯台は上民の戦士と塵民の運搬人を選抜して特別な組織「猟荒者」を設立した。猟荒者は地上の病院、宇宙船、補給ステーションなどの遺跡から旧世界に残された物資を収集する役割を持つ。


物語の主人公馬克(マーク)は猟荒者のチームリーダーであり、副将の冉冰(レンビン)とお互いに好感を抱いているが、灯台の法律により自分の本音を言うことができない。二人は灯台の城主の座をめぐる政治闘争に巻き込まれ、マークは繁殖任務に陥られたレンビンを救うため、灯台の法則を破り、裏切り者として灯台から追い出される。彼は急病になった旧城主を救うため、猟荒者メンバーを率い、地上へと進出することになる。そして、地上へ向かったマーク達の冒険は思わぬ展開を迎える…


12話まで配信されている内容から見ると、数々の謎がまだ未解決のままであり、現時点まで更新されている末世は本編の一角しか過ぎず、今後より広い世界観で展開していく姿勢がみられる。更新された内容から手がかりを見つけ出し、末世の正体について日夜ネット上での議論は止まることがない。


公開された内容から見ると、「霊籠」とは、字面から見ると霊魂、つまり魂を囲む籠のことを指すが、より深い解読もできる。灯台において異常に厳しい統制は人類の最後の楽園ではなく、ある意味、籠(檻という解釈)にもなった。「霊籠」は広大な世界観を持つだけではなく、人間の本性についても見事に描き上げている。凶悪な怪物よりも怖く、致命的なのは、一緒に戦う同僚や、権利を追うための野心家であり、つまりは人間である。


芸画開天とは

『霊籠』の制作会社である芸画開天は2015年5月に、武漢で設立されたばかりの、若い制作会社である。2015年9月に、芸画開天の初作品であり、試作でもあるアニメ『疯味英雄』(13話)が配信され、豆瓣評価で9.1点を獲得した。2017年5月に、『疯味英雄』の続編となる『幻鏡諾德琳』(1話)が配信され、豆瓣評価で8.4点を獲得。その後に三作目の『霊籠』が生まれた。


現在、芸画開天の社員数は設立当初の8人から200人近くに発展し、中国において知名度が高いアニメ制作会社となった。


『霊籠』の制作を記録したドキュメンタリーによれば、作品の準備期間は1年半であり、原稿だけでも500枚を超えたという。末世の世界観を作り上げ、数多くの登場人物をよりリアルに作るため、制作チームは本業以外に、演技訓練や軍事訓練などのレッスンも受けている。


芸画開天はアニメ制作の実力が認められ、2019年に行われたBilibili十周年の記念イベントで、Bilibiliはリュウ・ジキン (劉慈欣) のSF小説『三体』のアニメ制作を芸画開天に任せると発表し、2021年にリリースするとアナウンスした。


実は、業界内では『霊籠』が『三体』を制作するための試行作であるという説もある。何にせよ、『霊籠』の大成功によって、中国の『三体』ファンは芸画開天の実力を認め、これからのアニメ版『三体』への期待値が更に高まった。


他方、あまりにもクオリティを重視する芸画開天は更新を“すっぽかす”ことも珍しいことではないため、2021年に『三体』が本当にリリースできるか、また『霊籠』のS2がいつ更新されるのかも、まだ不透明であるが、今後とも芸画開天の発表が楽しみである。


ライター:Jenny  監修:AKATSUKI


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