ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
徳雲社:中国式漫才のアイドル化現象
はじめに
8月27日、Tencentがプロデュースしている、中国のトップ相声(シャンション)事務所『徳雲社』のメンバーが出演する初の相声専門バラエティ番組『徳雲闘笑社』(下記略:本作)がTencentにて配信開始となった。本作の豆瓣における評価点は最高8.3点に達し、現在も7.8点を維持している。
初回放送がリリースされて20日間で再生回数が3億に達し、微博での閲読数は26.5億、ツイート数は501.4万を超えた。第3期放送後に、本作はバラエティ番組再生指数1位を獲得、関連ショット動画の再生回数は8億を超える。
更に、もともと相声ファンの中での知名度は高かったが、一般視聴者には知られていなかった相声役者たちは本作の放送につれ、微博のフォロワー数が一気に数百万人も増え、知名度が急上昇している。
相声とは
相声とは中国の伝統的な話芸であり、話術や芸で客を笑わせる芸能である(日本で言うところの漫才)。相声を演じる人は「相声演員」(演員=役者)と自称する。通常、一人で演じる「単口相声」、二人で演じる「対口相声」があり、それぞれが日本の落語、漫才の形態に類似している。
「対口相声」を演じる二人は「捧哏」(パンガン)と「逗哏」(ドーガン)という役割があり、漫才の「ツッコミ」と「ボケ」に相当する。その他、3人以上が演じる「群口相声」というものも存在する。
相声には、「説」「学」「逗」「唱」という4つの基礎があり、「早口言葉を言う」、「各地方の方言やもの真似を学ぶ」、「ネタのツッコミやボケができる」、「各種の曲芸を歌う」という意味を持つ。
相声は明清時代から盛り場や茶館などで客を笑わせる話芸として演じられていたが、起源は未だに不明であり、一説によれば語源は「像声」、つまり物や人の声をまねる声帯模写の芸と言われている。(中国語で「相」と「似ている」意味を持つ「像」の発音が同じ。)
また、相声には清末から伝わってきた「伝統相声」があり、日本の落語で言えば「古典落語」に相当する。そのほかにも、時代に合わせて新しく創作された「新相声」や「当代相声」といったものも存在する。
『徳雲社』とは
『徳雲社』とは1995年に郭徳綱(グオ・ダーガン)氏によって設立された相声団体であり、現在中国で最も人気のある相声団体となっている。しかし、設立当初、郭氏はまったくの無名相声役者であり、相声という文化自体も中国では衰退していく一方の誰もが相声は未来のない職業だと思っていた。そんな中、当時の『徳雲社』は「劇場回帰」と「リアルな相声」をモットーに掲げ、相声を復興すると唱え設立された。
そんな社会からは見放されたかに思われた相声だったが、郭氏が劇場漫才を強調しながらも、テレビドラマ、バラエティ番組、映画などでも活躍したことで事態は一転、社会の目が向けられ始めた。一方では、衰退していた相声に火をつけたことは確かだが、あまりに“エンターテインメント寄り”な姿勢に、「伝統を捨てた」と相声業界や伝統相声視聴者からの反感を招くこともあった。
他方で、相声とは、アイドル、タレントと違い、「芸」による勝負の場である。徳雲社の早期メンバーである郭氏の弟子であり、中国で国民的な相声役者岳雲鵬(ユエ・ユンパン)などは、決して「顔値」(見た目・外見・顔立ち)で視聴者からの評価を得ているわけではない。
ところが、近年徳雲社の弟子入り(相声の入社は有名相声役者の弟子入りとなる)の基準は「顔値」に寄っているという。
例えば、最近人気を集めた張雲雷(チャン・ユンルイ)や秦霄賢(チン・シャオシェン)等は、アイドル並みのイケメンである。一部では張氏を「バーで盛り上がるはずのギャルたちを茶館に惹きつける人」と呼ぶ人々もいるという。秦氏は弟子入り後、半年で一気に人気ものとなり、本作の出演に至った。郭氏は番組で「君は芸を学ぶ前にすでに売れたなぁ。つまり、この業界は実は芸の能力とは関係なく、顔で勝負することが分かった」と自虐ネタとしていた。
また、彼らの「顔値」に惹きつけられ、アイドルファンから相声ファンに転じた若者はアイドルファンの「習慣」や応援の仕方などを伝統芸能に持ち込んだ。例として、相声演出でポリ応援棒を持ち込み、相声演出はまるでコンサートのようになる。そしてファンたちは「徳雲女孩」(徳雲ガールズ)と自称したり、「徳雲社」の俳優たちは「中国一番の男子グループ」と称したり、「伝統」から遠ざかってしまっている実情である。
『徳雲闘笑社』とは
『徳雲闘笑社』とは、出演者全員は徳雲社に所属する相声役者であり、「プロデューサー101」のように、優勝劣敗でトップを競い合う。他方、単純な「オーディション」番組と違い、本作は番組の中で相声をめぐって、伝統相声の歴史、規則、豆知識などを視聴者に紹介し、文化としての相声の拡散と相声に関わるノウハウの教育などにも務めている。本作を通して、薄くなってきた伝統芸能“相声”の存在感と地位の挽回が義務と言える。
また、競争メンバーがほとんど徳雲社所属の人気相声役者であり、各種の試合の優先順位を競い、劇場出演の順番とコンビ相手を決める。最後に、劇所で相声パフォーマンスを披露し、視聴者と師匠の採点で下位が脱落し、徳雲社の「エース」を選出する。従って、お笑いを取ることが本業の相声役者から生まれるネタまみれのバラエティ番組は爆笑を誘い、一気に人気を集めた。
そして、元の相声ファンや徳雲社のファンは本作を通して徳雲社メンバーたちの日常とプライベート関係も伺えると、かなりの盛り上がりを見せた。
最後に
コロナウィルスは世界中、各業界に大きな影響やダメージを与えた。劇場出演がベースとなる相声業界にとっても、絶大なピンチである。現在中国で最も人気のある徳雲社ですら、9ヶ月間も劇場出演を控えたため、退社して転職する人が少なくはない。
そんな中、バラエティがテレビや動画サイトなどの「オンライン化」へ進出するのは当然のことではあるが、以前から「テレビ寄り」や「アイドル化」などの批判も絶えなかった徳雲社にとって、「相声バラエティ」に展開することは、更なる「反逆」と見做される恐れもある。
相声業界では、郭氏に対する評価は賛否両論であるが、事実上彼は衰退していた相声を若者に受け入れられるように工夫し成功した。
また、各種バラエティ番組が豊富となってきた中国エンタメ業界において、本作も斬新な試みとして、Tencentの「お笑いIP」として扱われている。今後も、「徳雲闘笑社」のように、より細かい分類のバラエティ番組が増えていくだろう。