ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
ヒット作連発!好調の「迷霧劇場」:最新作『沈黙的真相』
はじめに
9月16日から、廖凡(リャオ・ファ)、白宇(バイ・ユー)が主演を務めるミステリードラマ『沈黙的真相』(12話)がiQIYIの「迷霧劇場」にて配信された。
ファンから高い期待を寄せられている中で、配信当初の豆瓣評価点数は8.8点を獲得。さらに放送につれ、評価点数が異例なほどに上がり、最高時は9.2点、現在では9.1点(31.6万人評価)を維持している。『沈黙的真相』はファンの期待に応えるだけでなく、むしろ期待を大きく上回る結果を出したと言えるだろう。同じく「迷霧劇場」から配信された『隠秘的角落』が今年の年度最高ドラマではないかと囁かれる中、早くも『沈黙的真相』がファンの期待を良い意味で裏切る結果を打ち出した。
『沈黙的真相』とは
『沈黙的真相』はミステリー小説『長夜難眠』(直訳:長い夜に、眠れない)に基づいて改編されたネットドラマである。
原作者は以前にも紹介した『隠秘的角落』(12話、URL)を執筆した、社会派サスペンス推理小説作家・紫金陳(ズージンチェン)である。
物語はとある冤罪を晴らすために、10年間にもわたり、自分のキャリア、理想、家族をあきらめ、人生から命まで奉げた検査官・江陽(ジャン・ヤン、白宇が演じる)の人生を描いた作品。
初回の放送で、江陽は元司法大学の恩師に“殺された”後、スーツケースで地下鉄に運ばれ、大きな騒ぎを起こしたあげく、警察に死体が発見される。
その後、恩師は殺人を認めたかと思いきや、法廷の裁決の日に、完璧なアリバイを示し、警察官や裁判長に、「真犯人を見つけてください」と言い出すのだった。
時を同じくして、ある写真の一片が新聞社に送られた。それは、江陽の死の真相に繋がるものであり、新聞に載せないと、市内で爆弾を爆発させるという脅迫文が添えられていた。
真相を明かすため、警察は江陽について調べ始める。
なぜ名門大学院を卒業し、若くして出世した江陽は入獄し、借金まみれの窮屈な人生に落ち、最後には殺されるにまで至ったのか、警察の調べにより、彼の人生が明らかになる中で、10年前に起きたとある冤罪の真相も浮かんできた。
江陽は政府関係者と企業が組んだ裏社会の勢力と戦い、証拠やスキャンダルの揉み消し、目撃者の暗殺、自分の命や家族まで脅かされ、さらには、公安や検察院、裁判所などの関係者からも様々な妨害と圧力を受け、冤罪の憂き目にあっていたのである。
本作は江陽の死から始まり、彼が事件を調べるために走り回る姿、当時の事件の真相を暴く姿など三線並行の複雑な構造で構成されている。真相が明らかになるにつれ、江陽の勇気と根性に感動し、視聴者の涙を誘った。
人気が続くミステリードラマ
以前も紹介したように、近年中国においてミステリードラマは人気のあるジャンルとして、注目や好評を集めている。今年、iQIYIの迷霧劇場は、『隠秘的角落』と『沈黙的真相』のほか、『十日游戯』、『在劫难逃』、『非常目撃』を合わせて5作品をリリースした。また、YoukuとTencentは『白色月光』と『摩天大楼』をリリースしている。少し前までは、ミステリー/サスペンスドラマはニッチなジャンルであったが、現在ではポピュラーのジャンルであるという認識が一般的である。
『十日游戯』
リリース日:6月2日
話数:12話
原作:東野圭吾『ゲームの名は誘拐』
主演:朱亞文(チュー・ヤーウェン)、金晨(ジン・チェン)
豆瓣評価:放送開始の8.1点から現在では7.3点を維持(8.2万人評価)
配信サイト:iQYI「迷霧劇場」
『非常目撃』
リリース日:8月18日
話数:12話
主演:宋洋(ソン・ヤン)、袁文康(ユエン・ウェンカン)
豆瓣評価:放送開始の6.2点から現在では5.7点を維持(1.7万人評価)
配信サイト:iQYI「迷霧劇場」
『白色月光』
リリース日:8月19日
話数:12話
主演:宋佳(ソン・ジヤ)、喻恩泰(ユー・ エンタイ)
豆瓣評価:放送開始の7.4点から現在では6.6点を維持(2.2万人評価)
配信サイト:Youku「サスペンス劇場」
『摩天大楼』
リリース日:8月19日
話数:16話
主演:郭涛(グオ・タオ)、楊子姗(ヤン・ツーシャン)、楊穎(アンジェラベイビー)
豆瓣評価:放送開始の8.2点から現在では8.1点を維持(19万人評価)
配信サイト:Tencent
『在劫難逃』
リリース日:9月2日
話数:12話
主演:王千源(ワン・チェンユエン)、鹿晗(ルハン)
豆瓣評価:放送開始の8.0点から現在では6.2点を維持(8.1万人評価)
配信サイト:iQYI「迷霧劇場」
センサーシップの影響を受けるミステリードラマ
中国において、ドラマに対する審査が非常に厳しいことは周知されている。とりわけ、公安、警察や検査官などを描くドラマは、それぞれの部門の承認を獲得することが必要となる。また、「犯罪者を見逃してはいけない」、「政府部門関係の出場人物は、マイナスなイメージを与えてはいけない」など、数々の制限が存在する。センサーシップを通るために、脚本はもちろん、完成した作品であっても修正や調整などが要求されてしまうことも多々ある。
例えば、上記で紹介した『在劫難逃』のオープニングは「サスペンス」の上に、「タイムスリップ」のSF要素が入っているため、非常に見どころがある。ところが、センサーシップを通るため、後半の物語が全て再編集や吹き替えに修正された結果、ストーリーが混迷してしまい、「訳が分からない」と批判され、口コミが一気に落ちてしまった。これは仕方がないことではあるが、制作チームは脚本段階で審査対応が緩かった面も一因である。
それに比べ、『沈黙的真相』は脚本段階で周到に“敏感点”を避けることができた。例えば、最初の事件の被害者が未成年であった部分を高校生に書き換えるなどの対応である。また、原作にある長い被害者リストは、ドラマでは物語の進展に関わる3人にのみ記されている。他にも、原作では「とんでもなく偉い人」が起こした事件は、ドラマでは「ちょっと下のレベルの偉い人の義理の息子」に書き替えられた。このように様々の工夫をして、本作は原作の醍醐味を最大限に残した上で、センサーシップ向けに改編をしたのである。
「短縮」した中国ドラマ
上記で一覧としたサスペンス作品の多くは12話で構成されたドラマである。中国ドラマといえば、全50話以上が普通であり、100話近い作品も珍しくはない。ネットドラマであっても30話以上の作品が一般的であり、日本のように全12話構成でドラマを制作するのは、非常に珍しいことである。
一般的に、中国ドラマの制作期間は3ヶ月間であり、より多くの話数で構成したほうが収益の「最大化」ができるとされている。
また、大作ドラマなら売れ行きが良く、より多くの話数を制作した方が、制作側にとって有利である。それゆえ、中国ドラマは長くなる一方であり、中国人は「長いドラマが好き」という思い込み周囲に与えるに至った。
数年前、筆者は日本ドラマのリメイクについて、動画サイトの意見を調査したところ、「30話以下のものは考慮しない」という結果であった。日本ドラマのリメイクに関して、興味を示したとしても、原作が短い場合、話数の追加(つまり原作にないオリジナルな内容を増やすこと)が求められる。
それゆえ、以前にも話題に挙げたが中国での日本ドラマのリメイクに関して、リメイク作品の話数はほとんど2倍以上に増やされている(URL)。
一方で、実は中国の一般視聴者はそこまで長いドラマに拘っているわけではない。調査によれば、2016年から2018年まで、45話以上のドラマに対する「離脱率」は45%、50%、56%と、年々高まる一方である。
また、迷霧劇場のヒットにつれ、短いドラマにも市場があり、無駄に話数を伸ばして、反感を招くより、原作の醍醐味を保ったままの方がよりクオリティが高い作品を創作できると証明されつつある。2020年のミステリー/サスペンスドラマを契機に、今後短くも優秀な作品が徐々に増えることだろう。