ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
トランプ氏も警戒する中国IT企業、BAT三家の「T」:騰訊(Tencent)
はじめに
アメリカの大統領トランプ氏は、「WeChat」や「Tik Tok」などの中国産モバイルアプリに関連する取引を9月下旬から禁じると発言し、世界のテクノロジー業界における中国の台頭を抑える取り組みを強化する姿勢を見せた。取引禁止というニュースの衝撃を受け、WeChatの親会社テンセント・ホールディングス(下記:騰訊)の株価は一時10%の下落をみせた。
なぜトランプ氏は中国のIT企業を警戒するのか、騰訊(テンセント)とはどういう企業で、どのような事業を展開しているのかについて、詳しく説明している専門家は多い。ここでは騰訊のエンターテインメントコンテンツに関する事業に焦点をあて簡単に紹介させていただく。
「騰訊(テンセント)」とは
騰訊とは創業者馬化騰(ポニー・マー)によって1998年に創業されたIT企業であり、2004年には香港証券取引所に上場、20年も掛からず世界レベルの巨大企業に成長した。2017年にはアジア企業として初めて時価総額が5000億ドル(約55.6兆億円)を突破し、フェイスブックを超えてアップル、グーグル(親会社のアルファベット)、アマゾン、マイクロソフトといった世界五大企業に肩を並べるに至った。
2020年8月12日、騰訊は2020年第1四半期(2020年4~6月)の決算を発表、売上高は1148.83億人民元(約1.9兆円、同29%増)、最終利益は301.53億人民元(約5025.5億円、同28%増)に達した。
騰訊のスタートと言えば、1999年に発足した『QQ』であり、また2011年にサービスが開始された『Wechat』で更なる事業展開をみせた。現在WechatのMAUは12億を突破し、中国人にとって日常で欠かせないアプリとなっている。騰訊のビジネスモデルはLINEと似ており、QQ、Wechatを始めとするコミュニケーションプラットフォームを基盤として、そこから獲得したユーザーを他のサービスに誘導、マネタイズを実現するとともに、事業を拡大していく。例えば、現在騰訊にとって最も売上に貢献しているゲームや、『騰訊視頻』(騰訊傘下の動画配信サイト、下記Tencent)なども、すべてこのシステムにより急速な発展を遂げている。
また、「(競合相手に)勝てなければ買う」というのも騰訊の常套手段であり、現在の騰訊はIT企業というよりも、投資会社と言っても過言ではないほど、国内や海外において投資や買収に非常に積極的に取り組んでいる。QQとWechatのトラフィックを利用して、各投資相手の事業を支援し、Eコマース、ショット動画、生配信、各種のアプリなど、オンラインサービスに関してあらゆる面で事業展開を計画している。その他、配達、シェアリングエコノミーなどのオフラインビジネスにも積極的に取り組んでいる。SNSのほか、小説、アニメ、ドラマ、映画なども、ユーザーを引きつけるための有用なコンテンツとして、騰訊にとっては重要なビジネスチャンスであり、積極的な事業展開をみせている。
エンターテインメント業界における騰訊の版図:閲文集団
閲文集団とは、中国最大のオンライン文学プラットフォームであり、2015年に騰訊グループ傘下にある騰訊文学が盛大文学と合併して設立された会社である。日本ではあまり聞いたことのない企業かもしれないが、閲文集団の傘下に「QQ閲読」、「起点中文網」、「創世中文網」、「雲起書院」などの数十のブランドが存在し、中国国内におけるネット文学をほぼ壟断、閲文集団から生まれたIPは誰でも一度は耳にしたことがある中国のIP宝庫とも言えるものである。
本サイトで紹介した作品の中で、『慶余年』(『慶余年』記事URL)、『霊剣山』(『霊剣山』記事URL)、『盗墓筆記』(『盗墓筆記』記事URL)なども閲文集団のプラットフォームで生まれたIPである。そのほか、『鬼吹灯』、『琅琊榜』、『擇天記』、『全职高手』、『将夜』などもすべて閲文集団から発足したBIG IPである。
2017年に、設立してからわずか3年で閲文集団は香港での上場を果たし、2018年にベテラン制作会社新麗伝媒(2007年設立)を買取した。新麗伝媒とは、製作費150億円をかけた日本との合作映画『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(2017)の制作会社であり、また『道士下山』(2015)、『煎餅侠』(2015)、『夏洛特煩悩』(2015)などのヒット映画と『我的前半生』(2017)、『白鹿原』(2017)、『如懿伝』(2018)、『慶余年』(2019)などの人気ドラマを制作したことでも有名である。
エンターテインメント業界における騰訊の版図:騰訊視頻
騰訊視頻は、2011年に騰訊グループ傘下で動画配信サイトとしてサービスを始めた。設立当初は、動画サイト戦国時代であり、生まれつき“お坊様(お坊ちゃま)”のTencentは強大な財力を用い後追いでありながら成功を収めた。「iQIYIではオリジナルを見る、Tencentでは版権ものを見る、Youku&Tudouでは古作を見る」という諺は、騰訊の財力を証明している。そして、Tencentは「ライセンス戦」を勝ち抜き、BAT三社による版権ものの態勢を固めた。つまり、バイドゥ(iQIYI)、アリババ(Youku&Tudou)、テンセント(Tencent)である。
閲文集団が設立されてから、Tencentは版権購入と同時に、自社グループのIPコンテンツの制作も始めた。ところが、iQIYIの自社制作方針(『iQIYI』記事URL)と違って、Tencentは制作に深く関わらないスタンスを取っている。つまり、閲文集団からIPを制作会社に売り出し、Tencentは制作会社が仕上げたアニメ、ドラマなどを購入するということである。新麗伝媒が閲文集団に買収してから、『慶余年』のように、「騰訊ー閲文ーTencent」という流れですべて自社消化するケースはあるものの、作品数は限られている。ドラマに関しては、Tencentは版権ものを好むスタンスは変わらない様子である。
また、「NO.1国産アニメプラットフォーム」を目標に掲げているTencentは、国産アニメ制作にも積極的に取り組んでいる。8月8日に行われた「騰訊視頻動漫年度発布會(Tencentアニメション年度発表会)」において、一気に64作のタイトルを公開し、その内22作品はオリジナルタイトル、22作品は漫画からのアニメ化作品、20作品はアニメシリーズの続編である。また、騰訊はアニメ、ドラマ、ゲームまでを開発できるIPを育てるため、閲文グループ以外にも、漫画プラットフォームなどへの投資も積極的に行っている。騰訊漫画のほか、市場シェア率1位の漫画プラットフォーム『快看漫画(Kuaikan Comic)』への投資、漫画制作会社『百漫文化』の買収、一時期では半年で10社の漫画関連の会社へ投資を行っている。
最後に
騰訊の決済発表によると、2020年上半期、騰訊はコンテンツ関連事業に268.62億人民元(約4記録4兆円)を投資し、前年比19.11%の増加。現在発表しているタイトルを見ると、今後もコンテンツに関する予算は削減しないようである。
今後もTencentの新しい動きや作品などを紹介させていただく。