株式会社AKATSUKI

中国動画配信プラットフォーム三巨頭 BATの一:iQIYI

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『BAT』と中国動画配信プラットフォーム事情

『BAT』とは、中国のIT企業を代表する大手3社である、Baidu(百度)、Alibaba(アリババ集団)、Tencent(騰訊)の頭文字を1つずつとった略称である。


この3社は各社動画配信プラットフォーム、iQIYI、Youku&Tudou、Tencentを所有しており、一時期は動画配信プラットフォーム「三巨頭」と呼ばれていた(現在Youku&Tudouは諸々の問題があり第一グループから離脱、現状では回復できる見込みはない。詳細は続編で説明)。伝統ある動画配信プラットフォーム三巨頭『BAT』の他に、Acfan、Bilibili、TikTok、西瓜ビデオなどの新参プラットフォームにも触れつつ、中国の動画配信プラットフォームについて、回を追ってご紹介させていただく。


iQIYIとは

iQIYI(アイチーイー)は、百度傘下の動画配信サイトであり、2010年4月に、百度とアメリカの投資会社『プロビデンス・エクイティ・パートナーズ』の共同出資により、設立された。設立時に龔宇氏がCEOに就任、現在も活躍中。


iQIYIは2018年3月29日に、アメリカのナスダックに上場。2019年第四四半期の財務諸表によると、2019年度の売上が290億人民元(約4,833.3億円)に達し、収支はマイナス103億人民元(約1,716.7億円)となる。iQIYIは設立してから赤字が続いているが、現在中国の動画配信プラットフォームはすべて赤字運営をしており、「未来にかけている」と言われる業界である。


中国国内の動画配信業界において、iQIYIは遅れて誕生した動画配信プラットフォームである。当時、LeTV(楽視)、Sohu(捜狐)、Youku(優酷)、Tudou(土豆)、Tencent(騰訊)、PPTV、PPSなど数社の動画サイトが存在しており、数年にわたる「大乱闘」が続いていた。iQIYIが入局する時点では、各動画サイトによる「版権戦」が始まるところだった。要するに、お金で配信権を奪い合うことである。かつて中国のほとんどの動画配信プラットフォームは有志者によって設立され、海賊版を流すことから始まった。2010年、中国国内において著作権に対する意識が向上すると同時に、各動画サイトは版権訴訟を起こすなど、常態的にライバル企業の足の引っ張り合いを行なっていたのである。このタイミングで設立されたiQIYIは「全コンテンツ正規配信」の動画配信プラットフォームであるという看板を背負い、業界内の戦いに参入した。


ところが、動画配信業界の「版権戦」によって、コンテンツの番販価格は加速度的に高騰し、最初の1話数千元(約数万円)から数十万元(約数百万円)へ、さらに数百万元(約数千万円)となり、最高時には、1千万元(約1.6億円)をも超える事態となる。動画配信市場はスタートしてわずか数年間で、購入金額がテレビ放送を上回った。やがて、BAT以外の動画サイトは徐々に衰えていき、当時、親会社がない動画サイトは解散、買収され、現在ではほとんどが消えてしまった。2013年には、百度もまたPPS(2005年設立)を買収し、iQIYIと融合させた。


結果的に、親会社と資金力によってBAT三社が第一グループとして勝ちぬき、高騰する番販金額の問題に手を挙げ、三社連結して「番販金額が異常に高価で、合理的な価格以外の作品には手を出さない」という「終戦宣言」を発表した。版権戦大乱闘で儲かった制作会社は数年間の旨味しか味わえず、たちまち三社に弾圧されてしまったのである。


2010年からわずか10年の間に、中国の動画配信業界は激変した。数社の版権戦大乱闘からBATの三国時代を経て、現在ではiQIYIとTencentの対立時代に発展している。


百度とは

上項の通り、iQIYIの設立も、発展も百度(バイドゥ)という強力な親会社のサポートがあったからこそ成されたことである。中国国内において、動画配信プラットフォームのユーザーの粘着度(リピート率)は非常に低く、Bilibiliの使用者以外、ユーザーは「コンテンツに連れていく」ことが一般的である。それ故、百度は捜索エンジンを運営している優勢を利用し、検索結果にiQIYIを前に出す、ライバルの検索結果を隠すという手段により、一気にiQIYIをトップに押し上げた。


もともと、百度は2000年1月に北京で設立し捜索エンジンを提供している会社であり、全世界の検索エンジン市場において、Googleに次いで第2位、中国国内では、Googleを押さえて最大のシェアを占めている。百度は2005年にNASDAQに上場し、捜索エンジン以外にも、ネット記事サービス『百度新聞』(2003)、掲示板サービス『百度貼吧』(2003)、地図サービス『百度地図』(2005)、知識共有サイト『百度知道』(2005)、オンライン百科事典『百度百科』(2006)、クラウドストレージサービス『百度網盘』(2012)、クラウドサービス『百度智能雲』(2015)など幅広いオンラインサービスを手がける。その他、旅行検索サービス『去哪儿』、音楽サービス『網易云音楽』などへの投資も行う。他方、百度の投資はアリババとテンセントよりスタートが遅れ、「AT戦」にはほぼ参加せず、両社に比べると時価総額も、財力も、影響力も距離があった。とりわけ、近年IT業界のダークホースと言われている「バイトダンス(ByteDance、Tiktokの運営会社)」の活躍によって、BATの「B」が変わるではないかという声もあったという。


当然、iQIYIの成長は百度の支援のほかに、新しいビジネスモデルを開拓し続けているということもポイントである。iQIYIは設立翌年から有料のVIPユーザーシステムを起用し、国内動画配信プラットフォームの中でも逸早く自社制作を始めた会社として、作品を出し続けている。


iQIYI成功への道

BATの動画配信プラットフォームをそれぞれの特色ごとに評価する際に「iQIYIではオリジナルを見る、Tencentは版権ものを見る、Youku&Tudouは過去作品を見る」という言葉がある。三社の中でiQIYIは唯一「自制劇」(自社制作オリジナル作品)チャンネルを持つ動画サイトであり、毎年ヒット作、話題作(マイナス評価で話題となる作品)、好評作(評判がよいが、再生回数がいまいちな作品)を出している。(下記、代表作のみをご紹介。)


2014年「灵魂摆渡」、「不可思議的夏天」(フジテレビと共同制作)

2015年「盗墓笔記」、「心理罪」、「白衣校花与大長腿」、「奇葩説」(トークショー)

2016年「最上のボクら(原題:最好的我們)」、「老九門」

2017年「河神」「バーニング・アイス(原題:無証之罪)」、「你好,旧時光」、「中国有嘻哈」(Hip-hopオーディション)

2018年「瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」(原題:延禧攻略)、「黄金瞳」、「偶像練習生」(アイドルオーディション)

2019年「破冰行動」、「動物管理局」、「楽隊的夏天」(バンドオーディション)


(※オーディション番組では、すでにデビューしているが知名度がいまいちな参加者が多く、オーディション番組によっては注目を集めて「セカンドデビュー」を目的とする参加者が多い。)


報道によると、2019年にiQIYIはバラエティー番組20本、ドラマ30本を自社制作した。ところが、「自社制作」といっても、出資と企画のみで、実際の制作は制作会社に依頼することも多い。または、制作会社が創作した作品を独占で前払いして「自社制作」にするものもある。


BATが制作に関わるようになって以降、「制作会社がBATの下請けになる」という声が絶えないが、実際には制作会社どころか、テレビ局も動画配信プラットフォームに対抗できなくなっている。かつて、ドラマの配信はテレビ放送日の24時にスタートするが、動画配信プラットフォームのほうが多く配信しているので、不公平ではないかと、動画配信プラットフォームは強調していた。2015年、iQIYIは自社制作の「蜀山戦記」を先行して配信し、後からテレビで流すという「先網後台」の新しいビジネスモデルを展開した。テレビ局からの抗議の声は絶えなかったが、この新しいシステムが他の動画配信プラットフォームにも採用され業界で定着してきている。


また自社制作に専念する以外にも、iQIYIは40社ほどアニメ、漫画、小説、ゲームなどのコンテンツ系会社に投資している。2016年に台湾版サイト(繁体字中国語)を設立し、2017年、Netflixとオリジナル作品のライセンス契約を結び、2019年にマレーシアのAstroと戦略提携を発表し、海外への進出を図っているようだ。


2020年、中国国内においてiQIYIとTencentのDAUとユーザー数が上限に至り、両者はほぼ同時に海外展開の策略を取った。また詳細は次回のTencentの発展と策略で詳しくご紹介させていただく。


ライター:Jenny  監修:AKATSUKI


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