ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
中国でいま最も人気のある二次元IP「陰陽師」
ファンタジー映画『陰陽師』
4月末、人気作家兼監督のグオ・ジンミン(郭敬明)が演出するファンタジー映画『陰陽師』(2部作)の「晴雅集」(1部)と「瀧夜曲」(2部)がクランクアップを迎えた。
映画『陰陽師』とはNetease(網易)が開発した和風二次元RPGゲーム「陰陽師」を原作に実写化され、マーク・チャオ(趙又廷)、ダン・ルン(鄧倫)、ワン・ズーウェン(王子文)などが主演を務める。また、グオ・ジンミンが手掛ける実写版のほかに、「陰陽師」を原作とした実写化映画はもう一つあり、そちらは人気俳優チェン・クン(陳坤)が主演を務め、2019年の年明けにクランクアップしている(タイトルは『侍神令』)。
現在、両作品ともに公開時期は未定となっているが、ファンからは大きな期待が寄せられている。
原作ゲーム「陰陽師」とは
ゲーム「陰陽師」は、2016年9月2日から正式にリリースされた中国製和風二次元ゲームであり、現在ではトップクラスの人気を誇るゲームとして、国内単日最高売上10億人民元(約166.7億円)を超え、ダウンロード数は全世界で2億を超える。
2017年から3年間アプリストア売上ランキングの上位5位に入り続け、推定IP価値は468億人民元(約7,800億円)、中国国内における人気ゲームIPの中では第3位となっている。2019年9月、リリースから3年が経過したにも関わらず、「陰陽師」は再度中国国内のアプリストアDLランキング1位を獲得し、2020年春節休みにも、2位にランクイン。この時、サーバーが落ちる事態に陥り、微博のトレンドランキングに入るなど、IPとしての魅力や活力を見せつけた。
「陰陽師」の物語は平安時代を舞台として、記憶を失った陰陽師の安倍晴明と魑魅魍魎との戦いを描いている。リリースに際して、杉山紀彰、釘宮理恵、鈴木達央、沢城みゆき、石田彰、鈴村健一、水樹奈々、福山潤、能登麻美子などの豪華声優陣を起用し、「さすが中国大手の企業だ」と日本の声優ファンの中でも注目を集めた。
こうして、「陰陽師」は「和風+豪華声優陣」で、中国の二次元ファンや、日本文化が好きな若者の中で一気に拡散されることとなる。さらに、2017年2月には、日本でもリリースされ、瞬く間に日本ファンの心をも掴み、事前予約数は35万も超え、上陸1日にしてアプリストアの無料アプリDLランキング1位を獲得した。また、「陰陽師」は韓国、タイ、ベトナムなどのアジアの国々にも上陸し、さらには、アメリカ、イギリスなどの欧米国までも進出、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの国でもDL数1位を獲得した。
中国発信の和風ゲーム「陰陽師」が成功した理由
実は、当時中国国内のゲーム市場において、「陰陽師」のような「二次元」ゲームはあまり人気がなく、「ニッチ市場」と業界では認識されていた。その上、和風文化の世界観、セリフは全て日本人声優を起用するといった点を加えると、制作会社Neteaseの中でも「陰陽師」は重視されておらず、あくまでも「予備軍」として扱われていた。本作リリース直前には、Neteaseの全社新作発表記者会見があったが、そこで名前すら上げられなかったほどである。
しかし、「陰陽師」はリリースされて間もなく、一気にアプリストアのDLランキング上位にランクインし、そのまま、ランキング1位を獲得、社会現象を起こすほどの話題となり、「出圈」(固定ファンの中で流行るだけでなく、周囲に認知、拡散され人気となる様)を果たし、制作会社すら予想していなかった展開となった。
なぜ「陰陽師」が人気を得ることができたのか、当時の市場環境を分析してみる。一つの原因として、近年中国の二次元ユーザーは急増しているということが挙げられる。iResearch の調査によると、2016年、中国の二次元のライトユーザーは2.7億人だが、毎年10%以上の増加率を維持し、2020年には4億人を超えると推定されていた。
結果、「陰陽師」は二次元ゲームという世界の幕を開くに至った。また、ゲーム自体について見てみると、遊び方についてはほとんどイノベーションの創出というものは存在しなかったが、「陰陽師」はストーリーに工夫が凝らされている。すべてのゲームストーリーとキャラ毎に存在する自伝ストーリーを合わせると、合計数十万字のボリュームがあり、現在も増え続けている。「陰陽師」の制作当初、開発陣は当時市場に出回っているゲームにはストーリー性が弱いと分析し、物語に重点を置き、一番重要なポイントとして開発を進めたとインタビューで答えている。
他にも、UGC(ユーザー制作コンテンツ)創作を支援し、本編にも採用するシステム作りや、SNSを活用した口コミの拡散、オフ会に力をいれる事によるファンコミュニティの運営など、「陰陽師」成功には数多くの理由が挙げられる。
そして、「陰陽師」は「逆襲」に成功し、開発会社Netease内でも、重要なIPとして、マルチメディア展開を経て、更に影響力を拡大している。
「陰陽師」のマルチメディア展開
ゲームからスタートした「陰陽師」は、原作RPGゲームのほか、「派生」ゲームも開発されている。例えば、MOBAゲーム「決戦!平安京」(2018年1月)、「陰陽師:妖怪屋」(2019年5月)、棋類ゲーム「陰陽師智走棋」(2019年10月)、カードゲーム「陰陽師百聞牌」(2019年12月)など、異なる遊び方で、新鮮感と継続感をファンに与え続けている。
ゲーム開発のほか、ミュージカル、アニメ、漫画、実写映画なども展開されている。
<以下マルチディア展開一例>
2017年7月から2018年7月まで、大葉タカナ作画による、漫画版『本格幻想よんみょうじ!』はツイ4(最前線)にて4コマ漫画として連載。
2018年3月9日から18日まで、Neteaseとネルケプランニングとの共同制作による、同名ミュージカルは東京でプレビュー公演を行い、その後に中国・深セン(3月30日- 4月1日)、上海(4月7-15日)、北京(4月20-22日)などでも上演。合計35公演を果たした。
2018年4月からは、アニメ版が中国の動画配信サイトBilibiliで先行配信され、同年7月から日本TOKYO MXにて放送された。さらに、シーズン2が2019年8月からBilibiliで先行配信された。
上記のように「陰陽師」は、各種メディア展開されているが、そのメインストーリー、世界観、絵柄はずっと統一されている。各分野の内容はお互いに独立しながら繋がっており、ファンにはどれも「見逃せない」と思わせるように仕上げられている。
「ファン経済」に基づく「全産業チェーン開発」
中国国内において、「スーパーIP」というのは、一つの分野だけで圧倒的な人気を得るものではなく、原作からのマルチメディア展開を成し、「全産業チェーン開発」を通すことで、小説、漫画、アニメ、ゲーム、ドラマ、映画、ミュージカルなど各分野の形式でお互いに影響しながら、「粉絲経済」(ファン経済:ファンに基づくビジネス)の威力を最大化し発揮するものを言う。
もともと、ファン経済というのは、自分の好きなタレントやアイドルへの愛を示すため、惜しみなく“課金”する消費者行動により生まれる経済効果という意味だったが、このビジネスモデルは「IP」に適用できた。かつて紹介した「魔道祖師」(「魔導祖師」記事参照)や「从前有座霊剣山」(「从前有座霊剣山」記事参照)も、同じビジネスモデルである。ファンは一つの内容に心を掴まれると、他の関連作品にも“課金”してくれるということである。
また、制作会社から見ると、良質な“IP”を、異なる分野の表現方法を通すことで、徐々にコアファンを固め、さらにライトファンを巻き込んでいくこの方式は、多くのIPによって実験された実績あるものとなっている。近年の映像制作会社、ゲーム開発会社などのコンテンツ会社の動きを見れば一目瞭然だが、一発で終わる内容より、「陰陽師」や「魔道祖師」など、多才な展開ができるIPが好まれ、全社の力を合わせて盛り上げている。
今後もこのような「スーパーIP」を紹介し続けることで、コンテンツ制作における“成功法”を分析していきたい。