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同人アニメ『私の三体』から広がった「三体」フィーバー

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はじめに

中国国産SFアニメ『私の三体(原題:我的三体)』シリーズのシーズン3『我的三体章北海伝』は、3月10日にネット放送の更新が終了し、2020年第1四半期の中国国産アニメの中では人気と口コミを最も集めた作品だと言えるだろう。


2015年に劉慈欣(りゅう じきん)は長編小説『三体』でSF界の最も栄誉あるヒューゴー賞を受賞、2019年の映画『流転の地球(流浪地球)』(『流転の地球』記事参照)も大ヒット作品として記憶に新しいが、最近では、「三体」、「劉慈欣」、「中国SF」これらの言葉がホットワードとして、人々の注目を集めている。


『私の三体(我的三体)』:「三体」IPにおける同人創作の大成功

『私の三体』は劉慈欣著のSF小説《三体》三部作(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)を原作として、ディレクターを「神遊八方(李圳宜)」氏が担当し、創作された中国国産ネット放送アニメ番組である。
最初はゲーム「Minecraft(マインクラフト)」をアニメーション制作ツールとして使用した粗末な同人アニメであった。
その後、段々とクオリティが高くなり、最終的にはプロのアニメーション制作ソフトウェアC4Dを使用するまでになった。


2016年末『私の三体』シーズン2の放送が始まり、制作チームは『三体』の著作権を持つ会社「遊族影業」から、正式にリメイク権を取得した。2017年6月8日に、「遊族影業」は「未来事務管理局」と提携して「三体宇宙」プロジェクトを立ち上げ、2018年には「三体」の唯一の著作権者として、ファンタジーIPの開発と運用に注力する「三体宇宙文化開発株式会社」を設立した。
そこから、『私の三体』も「三体」IPマトリックスに正式に組み込まれたという。


2014年2月から2020年3月まで、短編アニメ3シーズン、長編アニメーション映画1本が制作・放映されている。短編アニメについて、シーズン1は小説『三体』三部作の第一部のストーリーを描き、シーズン2とシーズン3は、小説の第二部『黒暗森林』の中心人物である「羅輯」と「章北海」をそれぞれに主人公として、時系列に沿ったストーリー展開を描写したという。
長編アニメ映画は2019年にビリビリ(BiliBili)動画サイトで公開された。放映時間103分、主に短編アニメとして公開された第2シーズンの11話にあたり、新しい内容も追加されている。
また、ディレクター「神遊八方(李圳宜)」氏によると、小説の第三部『死神永生』を原作とした『私の三体』シーズン4は現在制作中だという。


アニメの放送プラットフォーム「ビリビリ」のデータによると、現時点(日本時間4月27日18時現在)では、第3シーズンのアニメ『私の三体・章北海伝』が9.9点という高評価を獲得し(満点10点、累計約7.9万人が採点へ参加)、累計放送回数は3126.1万回、『私の三体』シリーズアニメのフォロワー数は117.9万人に達し、現在も継続的な成長傾向にある。
また、『私の三体』シリーズの豆瓣レビューサイトにおける評価は、第1シーズン9.4点、第2シーズン9.5点、第3シーズン9.7点というビリビリ発表のデータと同じく高い評価を得ている。


制作チームストーリー:「私の三体」から「みんなの三体」へ

ディレクターの「神遊八方」氏は、このアニメを創作したきっかけは、ただ「三体」をより多くの人々に広めたいという想いがあったからだと語っている。
制作にあたって、現代社会では、人々の生活リズムは速く、本を読むことよりも映像という形式の方が大衆に受け入れやすいと考えたが、資金や技術面等の制限により、当時フランス留学をしていた学部三年生の「神遊八方」は、ゲーム「Minecraft(マインクラフト)」を使用したマイクラアニメを制作しようと決めた。


マインクラフトの世界では、空間を立方体のブロックの集まりと定義し、プレイヤーはブロック(土、石、木等)を自由に構築・破壊できる。その設定を利用し、1つ1つのブロックを使い、シーンとキャラクターを組み立て、簡単なセルフの吹き替えとサウンドトラックを添えて、2014年2月27日にラフな仕上がりの『私の三体』シーズン1第一話はBiliBiliのゲームエリアへ気軽にアップロードされた。


その後2年間にわたり、アニメーションは不定期的に更新され、その過程でアニメ制作へ参加する同志が増え、作品の品質も継続的に向上していった。 2016年、『私の三体』制作チームは「三体」の翻案権を正式に得ることで、より多くの資金と技術のサポートを受け、アニメーションの品質も大幅に向上した。


現在、『私の三体』制作チームの中核メンバーは約10名で、ディレクター「神遊八方」によると、第3シーズンの制作は「内製を主体とし、外部委託は補佐」の形式で完成させたという。
アニメ1分あたりのコストは2万〜3万元(約33〜50万円)程度で、この金額は中国国内のアニメ業界相場で比較すると、かなりの安価である。


昨今のアニメーション技術に比べるとマインクラフトで制作されたアニメーションは、コストの低さもあり美麗なビジュアルの作品には見た目の上では劣る。しかし、現に『私の三体』は大衆からの絶賛を博した。これは単に制作チームのメンバーたちが皆原作を極めて熟知し、やる気溢れる情熱家であったからこそ、『私の三体』同人創作の成功は成し得た。


依然続く「三体」フィーバー

依然として「三体」フィーバーは続いている。
同人アニメ及び、本サイト4月21日にて紹介した『三体』同名ラジオドラマラジオドラマ「三体」記事参照以外にも、三体IPに基づいた様々な形式の文芸創作が存在する。


2019年4月から、3年以上の期間を製作に費やした『三体II 黒暗森林』3D舞台劇の全国ツアー公演が開始し、公演回数100回を突破、出席率は90%を超えた。舞台劇は、プロジェクションマッピング、3Dホログラム、ドローンなどの最先端のテクノロジーを組み合わせて、ユニークな視覚体験を生み出すことを売りにしている。


2019年7月には、「三体」をテーマをした公募型SF作文コンテストが開催された。3ヶ月の後に、世界各国の参加者から総計約320万文字の投稿を集め、参加者の年齢は12歳から51歳にまで至るという。


2020年1月10日、「三体・時空沈浸展」という「三体」テーマの没入体験型展覧会が上海に初上陸した。展覧会は3階層のエリアに分かれており合計2000平方メートルのスペースに設置され、6つのテーマシーンで構成されている。
最新テクノロジーを使い、音、光線、映像などさまざまな要素を織り交ぜ、三体宇宙を完璧に表現している。
展覧期間は1年間持続する予定であったが、新型コロナウイルスの影響で、1月25 日から一時中止の状態になり、15日間で販売されたチケットは約7800枚。(3月13日に、再開されたが、感染防止のため、一日の入場人数は200人以下と制限されている。)


終わりに

「三体」は世界的に影響力を持つサイエンス・フィクションIPとして、湧水のようなものである。
そして、それを活用し、促進し、豊かにすることも、非常に意義があり、人それぞれの才能によって多様化するIPとクリエイターたちの情熱には今後も大きな期待が寄せられる。


ライター:張 ケン  監修:AKATSUKI


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