コラム
Column
中国、日本IPリメイクの苦戦続く『安家』の評価と視聴率
日本IP『家売るオンナ』の中国版リメイク『安家』
日本の実写ドラマ『家売るオンナ』(下記原作と呼ぶ)の中国版リメイク『安家』は2月21日から東方衛視、北京衛視にて放送、騰訊視頻(Tencent)ではサイマル配信され、3月20日に最終話を迎えた。ドラマの最高視聴率は3.534%を超え、市場シェアは11.972%に達し、Tencentでの再生回数は55.7億PVを超えた。
なぜ上手くいかない?日本IPの中国版リメイク
まず、『安家』のリメイク失敗の原因について、主に下記の三つが挙げられる。
・話数及び設定の余計な追加:原作は2シリーズで20話だが、中国のリメイク版は全53話もあり、ヒロインの実家、親族関係、恋話など原作にない“余計な”内容が多く追加された。
・文化的差異:これは文化が違えばどこの国・地域でも同じことだが、日本での“常識”が中国では“非常識”となり得る。要するにこの作品では、海外作品リメイクに際してのローカライズがきちんとなされていないのである。例えば、終身雇用制のため、日本では仕事ができなくても会社は簡単に社員を解雇しないが、中国ではそれが通用せず、特に実績重視の不動産業界では業績を作れないセールスマンは会社に残れない。
・主旨喪失:原作は家を売ることで、ニート、LGBTなど社会の中での様々な人生模様を描き、いろいろな社会問題について考えさせられる。これは日本ドラマの強みと価値であるが、リメイク版ではほとんどがヒロインの恋愛と倫理についてを中心に物語が展開された。
その他にも、不動産企業の社員はスーツを着ない、一つの店舗に二人の店長を設けるなど非現実的で“浮いている”という批判も多いが、それらは制作チームの問題でありリメイクについての話題ではないので、ここでは詳しくは追及しない。
今まで、多くの日本IPが中国でリメイクされてきたが、良くも悪くも『安家』は注目度が高かったために、批判も過去のリメイク作よりも多くなった。そして、日本IPの“正しいリメイク方とは何だろうか”という議論を引き起こした。
中国における日本IPのリメイク版
2016年の禁韓令によって、中国国内において韓国IPのリメイクが中止になったおかげで、日本IPには転機が訪れた。ところが、今までたくさんの日本IPが次々とリメイクされているが、視聴者からの好評を得ることができた作品はほとんど存在しない。下記に一部のリメイク作品を例として挙げる。
「約会恋愛究竟是什么」(豆瓣評価:7点、全20話)
リリース:2017年2月
配信サイト:Tencent
原作:「デート~恋とはどんなものかしら~」(豆瓣評価:8.6点、全10話)
コメント:原作のヒロインの衣装、表情、仕草まで丸々コピーし、「漢化」(中国語に翻訳しただけ)版と言われる。
「問題餐厅」(豆瓣評価:8点、全20話)
リリース:2017年3月
配信サイト:Tencent
原作:「問題のあるレストラン」(豆瓣評価:8.8点、全10話)
コメント:原作は男権社会に対抗し、希望を失った女性が集まり、互助する女性の成長を描くが、リメイク版ではヒロインの性格を直接的にFtMのようなキャラクターに描き換えられている。
「求婚大作戦」(豆瓣評価:9点、全32話)
リリース:2017年4月
放送チャンネル:東方衛視
原作:「プロポーズ大作戦」(豆瓣評価:8.8点、全11話)
コメント:野球、夏に浴衣(リメイクでは漢服)、花火を見るなど、中国では全く馴染みのない内容をそのままリメイク版でも使用。
「深夜食堂」(豆瓣評価:8点、全36話)
リリース:2017年6月
放送チャンネル:北京衛視、浙江衛視
原作:「深夜食堂」(豆瓣評価:9.2点)
コメント:中国では日本の居酒屋のようなものは大都市にしかなく、サラリーマンとOLは滅多に行かない。居酒屋の設定は現実と乖離し過ぎな上に、セットはそのまま原作をコピーしたが、料理はプロダクトプレイスメントの中国産インスタントラーメンなど、ツッコミ所が満載。
「北京女子図鑑」(豆瓣評価:3点、全20話)/「上海女子図鑑」(豆瓣評価:6.8点、全20話)
放送/配信時間:2018年4月/5月
配信サイト:Youku
原作:「東京女子図鑑」(豆瓣評価:8.7点、全11話)
コメント:「女がキャリアへの強い欲望をもってどうするつもり」など職場における女性に対する偏見と差別視を貫く。「自分の力で理想的な生活を手にする」と強調しながら、彼氏からもらった高級バックやプレゼントを自慢するなど。キャリア女性を描くドラマのはずが、姿勢が一貫していない。
「不負時光」(豆瓣評価:5点、全38話)
放送/配信時間:2019年10月
配信サイト:iQIYI、Tencent
原作:「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」(豆瓣評価:7.8点、全10話)
コメント:小説からのリメイクとプロモーションしていたが、「山寨」(模倣品)感が満載。絵コンテ、スタイリスト、化粧まで原作ドラマと同じで、もはや「cosplay」に止まらず、「copyplay」だと言われるほど。
近年のリメイク作品制作事情
上記作品例のリリース時期を見ればよくわかるが、2017年以降、日本IPのリメイク作が一気に減ってしまった。他にも『静かなるドン』、『ブラックジャック』、『シティーハンター』、『美女缶』、『最高の離婚』、『ドラゴン桜』、『僕のヤバイ妻』、『のだめカンタービレ』、『月刊少女野崎くん』、『ノブタをプロデュース』など、中国に許諾したと発表された日本IPは多く存在するが、未だに制作情報の発表はない。
広電総局の海外IPからのリメイクを“支持”しない政策が原因の一つではあるが、リメイク作品が中国に馴染まず、実績が良くないことも重要なポイントとなっている。筆者は2016年に帰国し、国内最大の制作会社に転職、日本IPの買付を担当したが、2017年の年末には会社から全ての制作チームに日本IPのリメイク版についての分析報告書が出され、“リスクが高い”という理由で、進んでいた五六個のプロジェクトは全て停止となってしまった。
上記のリメイク作を見ると、『安家』に指摘される三つの欠点はほとんどのリメイク版で起きている。近年のネットドラマの流行につれ、制作話数が減り、日本とアメリカのように“シリーズ化”の傾向がある。(以前は最低30話と要求されていたが、最近では十数話のドラマも制作されるようになった。)
よって、①番目の問題には解決の目処が立ったが、②と③は、リメイク版の脚本に実力が求められるので、現段階では解決のしようがない。いつか日本のようにまともな職場ドラマができればと期待されているが、原作にあるものがリメイクされるたび、主旨をなくしてしまっている。中国は「すべての職場ドラマを男女愛か、倫理問題かにする」、「中国には職場ドラマがない」と言われるほど、職場ドラマが不足している。
他方、『世界の中心で、愛を叫ぶ』、『容疑者Xの献身』、『家族はつらいよ』、『君よ憤怒の河を渉れ』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『賭博黙示録カイジ』など映画にリメイクされた日本IPは成功とは言えないまでも、ドラマに比べて批判を浴びることは少ない。また次回は、これらの話題について取り上げる。
ライターー:Jenny 監修:AKATSUKI