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腐女子を得るものは、天下を得る?中国BL市場と昨年大ヒットIP「陳情令」

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昨年大ヒットIP「陳情令」とは

2019年6月27日からTencent (騰訊)で配信された時代ファンタジードラマ「陳情令」(計50話)は再生回数72億回を超え、2019年のWEBドラマ再生回数一位を獲得し、社会現象となった。中国の女性ファンからは「夏の思い出」と呼ばれた。



また、本来中国の動画配信サイトでは、VIPユーザー(有料会員)が一般ユーザー(無料会員)より約6話分程を早く視聴できるシステムとなっており、一般ユーザーでも毎週欠かさずに視聴することでVIPユーザーには数週遅れてしまうが、全話視聴することができる。


そんな中、この作品においては、中国動画配信業界で初めて「スーパーVIP」というシステムが導入された。このシステムは作品終盤の残り数話となった段階で追加課金(単作購入)をすることによりスーパーVIPはエンディングをさらに早く視聴できるようになった(約2週程)。このシステムが発表された当初は、ファンの反感を買い、大きな話題を呼んだが、実施されてからの売上は1億人民元に達し(打ち上げでは「祝1.56億人民元(約26億円)」という噂が流れていた)、大成功を果たした。その後に放送された人気ドラマは「陳情令」のビジネスモデルを参考に、先行エンディング視聴を別売りにすることが多くなっている。


メディアミックスと拡大する市場

ドラマ放送終了後にも、ファンの熱量は衰えず、タイと中国・南京で初のドラマを主題とするコンサート「陳情令国風音楽演唱会」が開催された。南京では1.6万枚のチケットはわずか5秒で完売し、9999人民元(約16.7万円)のVIPツアーのチケットも完売。チケットの転売価格は5~10倍となり、最高で15万人民元(約250万円)をも超えた。南京でのコンサートはTencentで生配信され、326.7万人が生で視聴し、生配信のみの収益で1億人民元を突破した。


そのほか、ドラマの(デジタル版)OSTは百万枚を超え,売上は2100万人民元超(約3.5億円)、Eコマースにおけるグッズの売上は500万人民元(約8.3千万円)を超えた。主人公カップルを演じる肖戦(ショウ・セン)と王一博(ワン・イーボー)の微博(ウェイボー)フォロワー数はそれぞれ1400万増と1700万増を遂げ、ドラマの微博閲覧数は202.8億を超えた。肖戦は一躍人気スターに押し上げられ、2020年の春節聯歓晩会(中国の紅白)に抜擢され、現在中国国内において最も人気ある俳優となった。


作品概要

 かつて温(ウェン)氏一族が横行し、人々は虐げられていた。江湖の有志は温氏一族を討伐すべく「射日之征(日を射る征伐)」を掲げる。そんな中、「夷陵老祖(イーリンラオズー)」と呼ばれる主人公の魏無羨(ウェイ・ウーシェン)【肖戦】は討伐で多大な力を発揮するが、常人とは一線を画す修練の道を歩む姿に、多大な力は妬まれ、次第に彼が討伐に力を入れる目的も疑われるようになる。やがて彼は同門の義兄弟に奇襲され、死に至った。しかし、16年後、魏無羨はとある謎の呪術によって甦られせられ、16年前に彼の周りで起きた数々悲惨な事件の真相を追い始める。そして、16年前には彼と犬猿の仲だと思われていた藍忘機(らん・わんじー)【王一博】は今回、彼の味方として共に立つ。やがて、魏無羨は藍忘機が16年の間彼に片思いをし続けていたこと、その思いを届けられなかったことを知る…


原作は小説投稿サイトから発掘された「魔道祖師」

 「陳情令」の原作は墨香銅臭が創作した時代ファンタジーBL小説「魔道祖師」である。この作品は2015年に初めて小説投稿サイト「晋江文学城」にて投稿され、連載中に作品コレクション数、売上ともに全サイト1位を獲得、アクセス数は10億PVを記録した。


原作小説は2016年に完結し出版された。2017年には原作をもとに改編(リメイク)された同名漫画が「快看漫画」にて連載され、2018年に同名アニメのシーズン1がTencentにて配信された。アニメの「豆瓣評分」における評価は9.0点で好評を得た。


同年、過激なシーンを残したままの同名ラジオドラマがリリースされ、再生回数は3000万回を超え、売上は千万人民元を超えた。これは中国国内においてはじめてラジオドラマで有料使用のビジネスモデルを成功させた作品となった。そして、アニメ版シーズン2も配信され、こちらも再生回数は20億回を超えた。


即ち、「魔道祖師」はわずか5年間で漫画、アニメ、ラジオドラマ、実写ドラマ、ネット映画などのメディアミックス展開を実現し、すべての分野で大成功を遂げ、トップレベルの大人気IPとなった。


BL作品の市場ニーズとセンサーシップ

中国市場においては「腐女子を得るものは、天下を得る」ということわざがある。これは中国の腐女子市場が非常に大きく、ニーズがあるということである。微博においてドラマ主人公二人のカップルに関する話題「#博君一肖」の閲覧数は77.6億を超えた。2019年、年間映画興行収入一位を獲得したアニメ映画「哪吒之魔童降世」(50億人民元 約833億円)も、公開当初、主人公二人の2次創作同人作品が一気にネットで広まり、話題を呼んだ。


だが、周知の通り、中国は政策によって「BL」は「タブー」である。アニメ、ドラマ、映画はセンサーシップが必要であり、BL作品はNGだが、センサーシップがない(サイトの自己審査となり、近年厳しくなる一方ではあるが)小説、漫画は多くのBL作品を産出している。それゆえ、小説や漫画から実写、またはアニメに改編される際、BLの恋を「兄弟愛」に書き換える。今回の「魔道祖師」のアニメとドラマも、各人物の葛藤や運命への対抗などの内容を保ったまま、同性愛を隠し、主人公の二人は「英雄は英雄を惜しむ」という解釈がされるよう表現される。


「陳情令」の耽美改編(中国語では「耽改劇」と呼ばれる)の大成功をきっかけに、多くのドラマ制作会社はBL小説を原案・原作とすることを視野に入れ、40作あまりの小説が一気に「耽改劇」として取り上げられ、業界で話題を呼んだ。


海外ヒットと日本展開

「魔道祖師」は中国だけでなく、海外でも大ヒットを記録した。アニメ版は世界アニメ評価サイト「MAL」で前三位にランクインした。中国語版ラジオドラマの字幕版が日本に上陸すると同時に、日本語版ラジオドラマの制作も発表され、鈴木達央、日野聡、緑川光、村瀬歩、森川智之などの人気声優を起用し、中国でも配信された。ドラマ版の「陳情令」は配信サイト「VIKI」での評価点数が9.8点に達し、中国ドラマ史上最高評価となった。そのほか、タイ、韓国などで放送され、3月からは日本にも上陸する予定となっている。


※記事内の為替レートは『1円=0.06人民元』で計算されています。

ライター:Jenny  監修:AKATSUKI


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