ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
中国映像業界におけるデータ事情
中国におけるデータ事情
2018年9月3日、iQIYIは突然動画再生回数の表示を閉じるという発表をした。今後については、視聴者の議論数、視聴者たちのインタラクティブなデータなどをもとに、総合的なデータとして「熱度」(ヒット指数)で表示すると発表し、これらの発表によりiQIYIは業界全体に大きな衝撃を与えることとなった。
その後の2019年1月18日、Youkuからも「良性的な業界環境を築き、コンテンツ自体に注目させるため、再生回数の表示を閉じる」との発表がなされた。iQIYIと同様に、再生回数のかわりに、「熱度」で作品の人気を表すという。
確かに、コメント数、弾幕数、SNSへのシェア数など視聴者の自主的な行動も作品の熱度を表す重要な参考要素のはずだが、2018年までテレビ局の視聴率と動画配信サイトの再生回数だけが注目され、作品を評価する基準として扱われていた。配信サイトにおいて再生回数ランキングの上位に入ることは、より視聴者の目に留まる可能性がある。また、「視聴回数〇〇億突破」などのPR記事も、放送・配信中に作品を盛り上げる重要な要素である。
現在のBAT三社、つまりバイドゥ(iQIYI)、アリババ(Youku&Tudou)、テンセント(Tencent)の中で、Tencentだけは再生回数表示を残している。
エンタメ業界における革命
かつて、人民日報でも動画サイトにおける“グレーゾーン”を批判し、不法アクセスで再生回数を「作る」ことは業界での暗黙のルールであると指摘されたことがある。数十億、数百億と再生回数記録が破られ、最もひどいケースでは、とあるドラマにおいて中国のオンラインユーザー全員が全話を1.5回も視聴したというありえない数字が作られ、業界関係者だけでなく一般視聴者にも不審がられるといったことがあった。
また、2017年にもある作品の9割のアクセス数が「作くられた」ものであるという記事が公開され話題となっている。
iQIYIでは、裁判にも発展し、停止公告を発表する1週間前には「動画配信サイト不法アクセス」第一案の裁判結果が下っており、3名の被告は2017年2月1日から6月1日の4ヶ月間に、IPを変えることで、iQIYIへアクセスし、少なくとも9.5億の再生回数を作り、百万人民元(千万円)越えの不法収入を獲得していたという。
このように「作られた」再生回数に関する報道が多く、視聴者からの不信感を買い、次第に再生回数は視聴者の参考データから外されてしまっていたのである。iQIYIの公告を発表する直前に行った市場調査によれば、配信サイトにおける再生回数は、ドラマを視聴する理由のTOP10にすら入っていなかった。視聴者の選択は業界の「自粛」と「革命」を起こしたと同時に、エンターテインメント業界にも大きな変化をもたらした。
「流量」の発足と没落
「流量」(リョウリャン)とは、近年中国エンターテインメント業界においてIPと同様に頻繁に使われる言葉である。原来は「トラフィック」の訳語として、データの量を表す専門用語だが、すでに各業界に浸透している。オンラインにおけるサイトのアクセス数から、現実に駅を通る通行人まで、すべてが「流量」で表される。さらに、近年では中国のエンタメ業界において、「流量」という言語から「流量芸人」という特別な分類まで生まれている。
「流量芸人」とは、“データから見れば数字がよい”タレントのことを指し、人気であることの指標とされている。「流量芸人」という言葉が流行し始めると、ファンにも認知され、流量芸人を抱えることで、作品の話題性も上がり、注目度が高くなった。そのため、「IP」+「流量芸人」は作品成功の鍵として、ドラマや映画の制作会社は流量芸人を抜擢することに非常に固執する時期があった(IPもファンがついているものとして、「流量」の一種である)。流量芸人が出演するだけでテレビ局や動画サイトにセールスしやすく、制作する前からほぼ「成功」したと見られていたのである。一時期、実力があるが「流量」に欠ける俳優はなかなか出演機会に恵まれず、業界「流量」風潮を批判したことがある。それに対して、仕事を獲得するために、若手タレントは「流量芸人」に寄せようとするケースが多くなっていた。
「顔値」、つまり見た目・外見・顔立ちで「流量」を獲得したアイドルが増え、「俳優」、「アーティスト」と違い、話題性だけで人気と注目度を維持しているため、彼らは実力を磨く必要がない。「流量」を維持することが役割となってしまえば、話題性や注目度が落ちてきた場合、「流量」だけを重要視するならば、現状を維持することとは、単純にデータを作ればよい話となる。
「流量」の維持は特段難しいことではない。動画サイトのアクセス数、Weiboのリツイート数、コメント数、「いいね」数などはすべて作成もしくは買うことができる。映画、ドラマ、バラエティなどの再生回数は主には制作会社の「出費」となるが、タレント個人の数字(WeiboなどのSNSでのフォロー数、リツイート数、コメント数、ファンとのインタラクティブ指数など)は大体の場合事務所の負担となる。もし事務所が費用を出さないとしても、ライバルタレントに負けたくないファンは、自主的に好きなタレントの「流量」を作る。
例えば、動画サイトでドラマに複数回アクセスしたり、タレントの1通のツイートに何度もコメント、リツイートしたり、掲示板に毎日チェックインしたり、トレンドランキングに入らせるために何でも好きなタレントの名前を入れたり、他人のツイートに自分の推しの名前を書いたりする。むろん、「炎上」もその内の一つの手段となる。
ところが、次第に「流量芸人」をつくるために、力を入れすぎたファン、事務所、制作会社のせいで、一般ユーザーからの反感が高まったことと、流量芸人ブームから数年経過し、最初から努力の方向が歪んていたため、ほとんどまともな作品が生み出されなかった。作られた流量のため、実際の影響力にしろ、広告の宣伝効果にしろ、予測・目標から遠がることは避けられなかったのである。
一方、実は中国において視聴率もまた買うことが可能である。中国での視聴率調査は民営会社が行うため、制作会社の関与が可能なのである。実際、筆者が以前勤めていた中国最大の制作会社も自社制作のドラマの視聴率を買っていた。
視聴率を買う理由は二つある。一つは、制作する際にプロダクトプレイスメントのスポンサーとVAM契約し、視聴率によって賛助金が変わるからである。もう一つは、他社が買っているため、自分たちも買わないと相対的な数字が低くなるからである。制作会社が動画の再生回数を買うことも同様の理由である。
まとめ
2019年に公開された「流量芸人」映画『上海堡垒』の失敗は“流量の終結”と見られている。現在の「流量芸人」はマイナスポイントとして、タレントや業界に嫌厭されている。調査によれば、視聴率や再生回数などより、豆瓣評価や口コミのおすすめなどが視聴する重要な参考要素とされている。つまり、現在では「口コミマーケティング」が重要なPR手段となっている。
今後も引き続き映像業界におけるマーケティングの潮流について紹介していく。