ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
「盗墓」テーマに火をつけた『盗墓筆記』シリーズ新作『重啓之極海聴雷』
『重啓之極海聴雷』とは
7月15日から、『盗墓筆記』(トウボヒッキ)シリーズの続編実写ドラマ『重啓之極海聴雷』(32話、直訳:リスタート、極海で雷を聞く。略:重啓)がYouku、iQIYIで配信開始され、ネットドラマ再生回数1位と、ドラマカテゴリ微博トレンドランキング1位を獲得した。
中国の独特の文化:「盗墓」
「盗墓」とは、海外からみると理解が難しいかもしれないが、中国では古くから存在する「職業」の一つである。一般の盗墓専門の泥棒のほか、「盗墓」は正規軍から始まったという説もある。また、曹操は「盗墓」の鼻祖とも言われており、歴史上に盗墓の記録が実在している。
長い歴史の中で、歴代の王朝や、富豪は膨大な財宝を収奪し、生前の贅沢な生活を死後にも持っていくため、豪華な墓を作り、財宝などで埋めつくす。例えば、最も有名な海外にも知られている例としては、始皇帝の兵馬俑が挙げられる。彼のお墓は2万㎡を超え、水銀で川や海なども作られた。
見方を変えると貴族や王族の墓は宝庫として、泥棒の標的となるため盗墓が避けられず、昔の墓づくりは防盗に各手段や装置などを配備するので、実際に盗墓を行おうとすると危険な冒険となる。実際に水銀に包まれた秦始皇帝陵は2000年以上を経た今でも、何かが盗まれた痕跡は見つかっていない(盗もうとした痕跡はあったが、全て失敗しているとして、科学者たちは結論を出している)。
このような「盗墓」=「冒険」の背景から生まれた「盗墓」小説は、長い歴史の中で代々伝えられてきた伝説、民俗、宗教やキョンシー、鬼、妖怪などのホラー要素と合わせられ、男性読者を魅力した。『盗墓筆記』のほか、『鬼吹灯』シリーズ(2006~2008)は盗墓小説の中で最初にヒットしたIPとして、既に劇場映画3本と、ネット映画3本、シリーズドラマ5作に実写化され、現在も新作が制作中である。こちらについても今後ご紹介させていただく。
『盗墓筆記』とは
『盗墓筆記』とは、南派三叔(筆名:ナンパイサンシュー)によって創作され、2006年からネットで連載開始、2007年に出版、2011年に完結した秘境探検・ミステリーホラー小説である。9冊の本編の合計販売数は1200万部を超え、2016年の「中国IP価値ランキング:ネット文学TOP10」に選ばれた。そのほかの有名作品としては、『藏海花』シリーズ(2012)、『沙海』シリーズ(2013)、『重啓』シリーズ(2017)などがあり、短編作品では『幻境』、『钓王』などが有名である。
『盗墓筆記』の物語は呉邪(ウー・シェイ)という主人公の第一人称視点で冒険の物語が語られる。彼は先祖代々お墓の盗掘を生業とする一家に生まれ、小さい頃からお爺さんが残した『盗墓筆記』を熟読しており、謎とロマン溢れる「盗墓」の世界に憧れていたが、実践する機会はなかった。ある日、偶然にも呉邪は伝説の遺跡の鍵となる手がかりを手に入れ、知識は豊富だが実際にはド素人の呉邪は人生初の冒険に挑戦する。そこで彼はお化けやキョンシー、怪生物といった様々な不思議な現象に遭うほか、後に一生の親友となる、王胖子(オウ・デブ、原作に本名はなかった)と張起霊(チャン・チーリン)と出会う。三人は伝説のお墓を探検し、謎を解きながら張起霊の隠された過去を求めていく。
本編の最後では、張起霊は呉邪のため、長白山の謎の異世界と通じているとされる青銅門に入り、「10年後に会おう」という言葉だけを残した。小説連載10周年の2015年8月17日には、大勢のファンが長白山に詰めかけ、観光客数は50%も増加。その上、長白山に来ることができないファン1万人以上のサインを集めた横断幕も登場した。
なぜ『盗墓筆記』は他の盗墓小説より影響力や知名度が高いのかというと、女性ファンを引きつけやすい「BL」要素が溢れているからである。例えば、『鬼吹灯』の男性2人と女性1人の設定に比べて、『盗墓筆記』の主な登場人物は男性3人である。また、主役の知能担当の呉邪は武力に欠け、張起霊に頼るばかり、いつも無口で無表情な張起霊は呉邪だけに笑顔を見せたり、彼だけに心を開くなど、腐女子が萌える要素が満載である。また、主人公や主要登場人物の関係性以外にも、“曖昧”な関係を持つ個性的な脇役たちも複数おり、腐女子の好みを網羅している。以前にも数回紹介した通り、中国では露骨な「BL」要素はNGだが、「腐女子を得るものは、天下を得る」という諺が業界内にあるほど需要は高い。『盗墓筆記』登場人物の(いわゆる)“カップリング”はBLジャンルの中でも上位を占めるほどに人気が高い。
『盗墓筆記』シリーズのメディアミックス
上記で紹介した通り、『盗墓筆記』は男性から女性ファンまで獲得し、あまりの人気ぶりに、次々と実写化されてきた。ところが、ほとんどの作品のクオリティがファンの期待に応えられず、次第にファンからは関心が失われてしまった。
ネットドラマ『盗墓筆記』(豆瓣評価:4.9点)
リリース:2015年6月12日、12話
制作会社:歓瑞世紀
配信サイト:iQIYI自社制作
主演:リー・イーフォン(李易峰)、ヤン・ヤン(楊洋)
影響:完結までの再生回数は28.8億PVを記録し、当時ネットドラマの最高記録を突破した。また、iQIYIは本作でVIP有料ユーザーが先に視聴できるサービスを提供し始め、一気にVIPユーザーが500万人を突破した。一晩で260万[1]のVIP購入アクセスが殺到し、サーバーダウンを引き起こしたこともあった。
テレビドラマ『老九門』(豆瓣評価:6.4点)
リリース:2016年7月4日、48話
制作会社:慈文伝媒、iQIYI、南派投資、国奥影業、楽道互娯
配信サイト:東方衛視、iQIYI自社制作
主演:ウィリアムチャン(陳偉霆)、チャオ・リーイン(趙麗穎)、レイ(張藝興)
映画『盗墓筆記』(豆瓣評価:4.7点)
リリース:2016年8月5日
制作会社:上海電影、楽視影業、南派泛娯
主演:ジン・ボーラン(井柏然)、ルーハン(鹿晗)
興行収入:10.02億人民元(約167億円)
ネットドラマ『沙海』(豆瓣評価:6.5点)
リリース:2018年7月20日、52話
制作会社:Tencent、南派泛娯、視驪制作
配信サイト:Tencent
主演:ウー・レイ(呉磊)、チン・ハオ(秦昊)
ネットドラマ『怒海潜沙&秦岭神树』(豆瓣評価:5.8点)
リリース:2019年6月6日、40話
制作会社:歓瑞世紀、Tencent、五光十色影業
配信サイト:Tencent
主演:ホウ・ミンハオ(侯明昊)、チェン・イー(成毅)
上記に紹介した通り、2015年に初の実写ドラマが制作されてから、ほぼ年間1作が制作・放送されており、出演者はほとんど当時最も人気がある俳優を起用している。ところが、口コミの面では、高くても6点程度に過ぎず、度重なるリメイクにも関わらず一向に高クオリティの作品が現れなかったことで、IPの影響力は『鬼吹灯』に抜かれてしまった。
今回の『重啓』のヒットによって、『盗墓筆記』のIP価値は再び高騰し、今後展開されるシーズン2や制作発表された『藏海花』にも多くの期待が寄せられている。引き続き『盗墓』シリーズの動向には注目していきたい。