ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
『明星大偵探』が巻き起こす密室推理脱出市場ブーム
『明星大偵探』とは
『明星大偵探』(直訳:スター大探偵)とは、2016年からMango TV(湖南衛視傘下の配信プラットフォーム)にて配信されるミステリー風バラエティ番組である。2019年までに5シリーズが制作され、豆瓣において、S1~5まで、9.3点、9.1点、9.1点、8.6点、8.5点を獲得し、すべてが高評価で、“良心”的なバラエティ番組だと賞賛されている。
『明星大偵探』には、特定の場所、人物、ストーリー、シチュエーションが存在し、出演者たちは各自の脚本をもらい、キャラクターを演じながら、協力して真犯人を捜し出す。通常、全6名のキャラクターの中に探偵と真犯人が1名ずつ存在するが、スペシャルの場合、登場キャラクターが増えたり、共犯者が存在したりする。ゲームの流れとしては、出演者全員が3回の時間限定証拠捜査に参加し、探偵は全員に公開と非公開の取り調べをする権利がある。1回目と2回目の捜査は公開捜査であり、捜査終了後に、全員が各自発見した証拠を共有し、一番疑わしい対象を発表する。3回目の捜査は個別捜査となり、情報共有ができない。出演者全員は証拠、アリバイ、動機などを通して、各自の推理能力によって全員投票で真犯人を選出する。
『明星大偵探』の真犯人はいわば「人狼ゲーム」の「人狼」役で、「村人」に偽り、最後に投票されなければ勝利、正体を暴かれたら失敗となる。ルール上、真犯人だけが嘘を言えるため、他のキャラクターの不利な証拠を見つけたり、公開取り調べにある発言の抜け穴を利用して陥れたり、罪を押し付けたりといったことが可能である。基本的にキャラクター全員に動機があり、隠している裏話があるため、各自の(番組の特徴でもある)ドロドロとした物語から手がかりを見つけ、真犯人を推理するのが見どころとなる。
初の試みである推理バラエティ番組『明星大偵探』はなぜ成功したのか
『明星大偵探』ヒットの理由を考えると、主に3つの原因が挙げられる。
知能や能力の対抗で新鮮感があり、視聴者がリスペクトを感じられる。
かつての中国ドラマ、映画、バラエティ、アニメなどは、「娯楽」としての部分を期待され、実際にそのように扱われてきた、エンターテインメント要素が溢れるが、教養の面に欠けている。また、昔大学卒など全体数が少ないので、深い内容、または頭を使う内容などはあまり好まれない。インターネットの普及につれ、深さのあるコンテンツを見たい若者たちは欧米や日韓のコンテンツに触れ合う機会があり、海外の内容が中国において流行ってきた。配信サイトが設立された当初、伝統のテレビ局のように制作会社からコンテンツを購入してきたが、近年オンライン視聴者の好みに合わせ、自社制作のドラマ、バラエティやアニメなどにも挑戦し始め、高質の内容を創作し続けた。
『明星大偵探』は中国国内において初の推理サスペンスバラエティ番組として、出演者各自の情報収集力、分析力、推理力によって最後に真犯人を選出するため、結構「智商」、つまりIQが求められる。今までのバラエティ番組はボケやアホキャラが溢れており、わざとバカぶりするタレントもいる。ところが、かつてはおバカキャラが人気だったが、最近売りに出すと逆に揶揄われる傾向がある。ある番組で、小学生レベルの数学問題を解けるだけで、タレントたちが盛り上がって猛賞賛した原因で、SNSで炎上したこともあった。それらに比べて、『明星大偵探』はかなり出演者の能力が求められるので、視聴者はやっと新鮮感を感じ、「リスペクトを感じられる」と感心した。また真面目な捜査と同時に、適宜、且つ適切なコメディ感も必要のため、出演者にとってIQとEQ(中国語では「智商」と呼び、こころの知能指数を指す)のバランスを考えなければならないので、かなり挑戦的な番組となる。
推理サスペンスブームに乗る。
前回のドラマ『隠秘的角落』に関する内容で紹介した通り、近年最も評価されたドラマ、2017年の『白夜追凶』と今年の『隠秘的角落』は二作とも推理サスペンスである。そのほか、2015年と2018年のシリーズ映画『僕はチャイナタウンの名探偵』(原題:唐人街探案)、2017年の中国語版の『容疑者Xの献身』(原題:嫌疑人X的献身)など推理系の映画も、すべて高い興行収入を得た。また、上記①の理由のもとに、かつて中国ではニッチなジャンルだと思われていた推理サスペンスは徐々に市場を広げ、現在人気のジャンルとなった。
「劇本殺」と「没入型インタラクティブ体験館」を融合した『明星大偵探』
『明星大偵探』は基本的に近年若者の間で最も流行っているオフラインソーシャルアミューズメント「劇本殺」と「沉浸式互動体験館」を融合させ、映像でプレイする過程を記録して、「神視点」から全過程を視聴者に見せる。「劇本殺」とは、脚本の中で決められた役を各自が演じながら、殺人案を始めとする様々の謎を遂げ、ストーリーを楽しめる進化した「人狼ゲーム」である。かつて、テーブルを囲んで、参加者がセリフだけでプレイする喫茶店のような簡易的な専門店舗があったが、近年ストーリーにあるセットを再現して、「没入型インタラクティブ体験館」が続々とオープンされる。
「没入型インタラクティブ体験館」とは、『明星大偵探』のように、参加者が脚本に書かれたキャラをコスプレ(衣装を着る)しながら、現場を再現したセットに入り、スタッフが演じるNPCなどから情報を聞き取りして、謎を解ける。「劇本殺」などの犯人探しのほか、推理脱出テーマの体験館も現在絶大な人気を得ている。
中国国内において、このようなオフラインアミューズメントは2008年から既に存在しており、歴史が長かったが、近年急増加を遂げた。中国文化娯楽業界協会実景娯楽分会のデータによれば、2019年中国において、市場規模は100億人民元(約1666億円)を超え、2018年の2倍増を遂げ、今後は世界一のアミューズメント市場に拡大すると見込まれている。
最後に
センサーシップが非常に厳しい中国では、通常ならバラエティで「殺人」などはありえないことである。『明星大偵探』はテレビ放送を諦め、配信のみとはいえ、視聴者からよく「これで配信できるの?広電総局は?」と嘆く。それゆえ、番組は配信できるため、CCTVの法治番組の名司会者撒貝寧(サー・ベイニン)をレギュラーに抜擢し、謎解きながら、法律知識を解説したりする。CCTVでは真面目な司会者だが、本人はお笑い芸人超えのバラエティ感ある個性のため、バラエティ番組でやっと才能を披露機会があった。
また本編の後に、出演者からの事件の裏に現れされる社会現象に対するコメント、人生への忠告やアドバイスなどを加えることで、「前向き」且つ、「有意義」な番組に持ち上げた。
中国市場において「センサーシップ」があるため、制作会社や中国に進出したい海外企業にとって結構頭を悩ませられる。ところが、禁じられるとはいえ、完全にNGに限られない。また、禁じさればされるほど、のニーズが高まる。以前紹介した『慶余年』(タイムスリップ)や『陳情令』(BL)などもすべて禁じれるジャンルだが、制作チームの微調整で無事に放送され、大ヒットとなった。
中国市場でエンタメ事業を広げるため、各作品のアイディアを参考するのも大事になるので、今後も徐々作品を紹介させていただく。