ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
広電総局も“怯える”サスペンスドラマ『隠秘的角落』
広電に“封鎖”される作品群
中国ドラマ市場において、広電総局に「封鎖」されるほどの作品は、ヒット作の枠を超え、数年に1度しかない傑作として歴史に名を残し、同ジャンル作品の中では最高傑作とみなされる。例えば、タイムスリップ要素がNGとなった『ジャクギ』(原題:歩歩驚心)、BL要素がNGとなった『ハイロイン』(原題:上瘾)などは、業界に大きな影響を与えた。
最近、iQIYIにて放送されたサスペンスドラマ『隠秘的角落』(直訳:隠れるところ、英訳:The Bad Kids 、12話)は放送開始後すぐに高い評価を得て、ヒット作となった。放送開始当初、豆瓣の評価は9.2点に達し、放送終了後も9.0点を維持、実に3年ぶりとなる9点台の高品質ドラマとなった。
ちなみに、前回9点以上の記録を残した国産ドラマは2017年の推理ドラマ『白夜追凶』(直訳:白夜に犯人を追う、32話)であり、偶然にも二つの作品は同じくサスペンスジャンルの作品である。
ところが、『隠秘的角落』がヒットして間もなく、iQIYIの特別枠サスペンスドラマ劇場『迷霧劇場』が「封鎖」されたと報道され、リリースと予告した作品は急遽ストップし、未だに放送時期が未定となっている。
『隠秘的角落』とは
『隠秘的角落』は、社会派サスペンス推理小説作家・紫金陳(ズージンチェン)の『壊小孩』(直訳:悪いガキ)をもとに改編(リメイク)されたサスペンスドラマである。
ドラマの内容としては3人の子供が夏休みに、偶然にも殺人事件に巻き込まれてしまう。その後、様々なハプニングから事件が更に拡大、次々と犠牲が出てしまう、そんな事件の最中における複雑な人間性を描いた作品となっている。
主演を務めた秦昊(チン・ハオ)は、王小帥(ワン・シャオシュアイ)監督や婁燁(ロウ・イエ)監督といった著名な監督からも支持されている文芸映画の実力派俳優である。その他、今年の東京国際映画祭とベルリン国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した王景春(ワン・ジンチュン)や、張頌文(チャン・ソンウェン)、劉琳(リュウ・リン)、蘆芳生(ルー・ファンシェン)、李夢(リー・ムン)などの一流実力派俳優を揃え、クオリティ向上を図っている。
作品概要
張東昇【秦昊】は婿入りで結婚し家庭内でも肩身の狭い思いで過ごしていたが、ついに妻から離婚を突き付けられ、妻の両親も自分を応援してくれない様子をみてしまった彼は、ある日、妻の両親と登山に行き、二人を崖から突き落とし事故と偽る。
誰にもバレていない完璧犯罪かと思いきや、同じく登山にきていた朱朝陽をはじめとする3人の子供のカメラに撮られてしまう。
しかし、3人の内2人は児童養護施設から逃げ出した孤児であり、警察に通報すると施設に連れ戻されるため、告発できない。残りの1人、朱朝陽は親が離婚して、両親の愛を感じられず、内向的な性格故に一人の友達もいなかった。彼はせっかくできた友達のために、お金に困っていた2人の味方となり、張東昇からお金を脅し取ろうとする。
一方、3人が張東昇と対峙している間にも、朱朝陽の義理の妹の「事故死」を皮切りに、続々と死者が増え、事件が雪だるま式に膨らんでゆく…
『隠秘的角落』の“裏ストーリー”
視聴者が「登山に行こうか」というセリフに対してトラウマになるほどぞっとする記憶を植え付けた『隠秘的角落』は暗い作品であると言われているが、原作小説の登場人物の人間性についての描写は更に暗く深刻である。また、通常の子供に対する純粋且つピュアなイメージに転じて、未成年の心の奥の残酷さと狡さを生々しく描いている。
しかし、これをそのまま実写化すると絶対に放送できないので、ドラマ版ではかなりの改編を行い、未成年犯罪などの部分を曖昧に表現している。とりわけエンディングに関して、「訳が分からない」とコメントした視聴者が数多く存在したため、解説や解読文章、動画などが多くネットに投稿され、真相についての議論が止まらなかった。
ドラマの中で、「東昇」と「朝陽」という名前は似た意味の言葉であり、本来希望に溢れるイメージを持つ言葉だが、二人の性格は内向的で、臆病である。名前以外にも、数学教師を務める張東昇と、いつも数学で満点を取る朱朝陽は同じくデカルト好きで、几帳面さと軽い強迫性障害気味でもある。
また、二人とも家族の問題を抱えており、家族に愛されることを求めるが、応じてもらえなければ家族や親友を殺しても動揺しない残酷な一面がある。
それゆえ、張東昇は大人になった朱朝陽とも言われている。
ドラマの最後では、張東昇は犯罪現場で警察に撃ち殺され、彼に拘束されていた朱朝陽は無事に救助されるという内容となっており、広電総局が求める「ハッピーエンディング」のように終結したが、実はドラマに隠された手がかりによると、全く違う解釈ができる。
まず、朱朝陽の義理の妹は塾から転落死ではなく、窓の外の小さいな花壇に落ち、死なないはずだが、朱朝陽の見殺し、もしくは彼に突き落とされたという可能性がある(張東昇の殺し方とも一致した)。そして、彼は張東昇を誘導し、自分の犯罪現場を目撃した孤児と、それを知るかもしれない孤児を殺害した。張東昇ができなかった完全犯罪は、まだ子供である朱朝陽によって実現されるというシナリオである。
しかし、ドラマの表現では、義理の妹の死の経緯はカットされ、犯行動機の手がかりも、一人の孤児が彼に残した一通の手紙の言葉遣いしかない。また、朱朝陽のわずかな暗面は行動や言葉に隠れ、ほとんど表に出ることはなかった。
広電総局のセンサーシップによると、正義は負けてはいけない、犯罪者を見逃してはいけないなどの暗黙のルールが存在する。ドラマに対する規制は映画よりも厳しいため、今まで未成年犯罪を描いたドラマは存在していなかった。『隠秘的角落』は表ストーリーとして、大人である張東昇の犯罪を描いたが、朱朝陽によって起こされた一連の事件はすべて編集やカットなど、表現の手法によって裏に回された。つまり、原作を読んでいない視聴者、またはドラマの中から手がかりを読み取れなかった視聴者は未成年犯罪という隠しストーリーを知らず、本作は張東昇という悪人を中心に描く犯罪ドラマであると思い込んでしまう。
しかし、原作の名前からわかるが、本作の本当の主人公は「悪いガキ」の朱朝陽である。
なぜ本作がセンサーシップを通ったのかという疑問について、ネット上では「広電総局はドラマを真に理解できなかった」と揶揄されている。
一般的に広電総局の目から逃れ、小範囲で話題を作り、その後ヒットしてしまうと、今後の作品に悪い前例として、直ちに封鎖されてしまう。しかし、今回に限っては、本作を封鎖してしまうと、違う見解の正当性を認めた(自らの解読が浅はかであったと認める)ということになってしまう。そのような経緯から、今回『隠秘的角落』ではなく『迷霧劇場』が封鎖されるに至ったのである。
サスペンスドラマ劇場『迷霧劇場』
『迷霧劇場』とはiQIYIが最近設立した専門のサスペンスドラマ劇場であり、本作の他、6月2日に配信された『十日遊戯』も豆瓣評価7.4点を獲得、近年では珍しい高評価された日本原作の実写化ドラマとなった。『十日遊戯』は東野圭吾の原作小説『ゲームの名は誘拐』を実写化し、朱亜文(チュウ・ヤーウェン)、金晨(ジン・チェン)など実力派俳優を揃えた。
もともと、夏休みに廖凡(リャオ・ファン)、白宇(バイ・ユー)主演の『沈黙的真相』(紫金陳原作のミステリー小説『長夜難明』)や王千源(ワン・チェンユエン)、鹿晗(ルハン)主演の『在劫難逃』、宋洋(ソン・ヤン)、袁文康(ユェン・ウェンカン)主演の『非常目撃』などが配信される予定であったが、現在はすべて延期が決定した。これらは実力派俳優を揃え、評判の良いの制作会社によって制作された、結構期待値の高いタイトルであったが、いつリリース可能であるのかは不明である。幸い、封鎖されたのは劇場だけとなり、作品自体ではない。恐らく広電総局は作品を見直して、“裏ストーリー”や二重見解の確認に時間を要しているのだと考えられる。
これらの作品がリリースされたら、高品質なサスペンスドラマを再び楽しむことができるだろう。