コラム
Column
『哪吒之魔童降世』―中国アニメ史に残る転換点となる作品
中国映画興行収入史を更新し、第2位にランクイン!
2019年7月26日、劇場アニメ『哪吒之魔童降世』が中国各地の映画館で上映された。そして、公開開始から1時間29分で、1億元(約17億円)の興行収入を超え、最終的には、50億元(約833億円)の興行収入で、中国映画歴代興行収入ランキングの第2位を記録し、2019年度世界映画興行収入の第11位にもランクイン。劇場アニメ『哪吒之魔童降世』は中国映画興行収入ランキングトップ20の中で、唯一のアニメ映画となった。
『哪吒之魔童降世』の投資は通常の会社投資ではなく、1600人の個人連合投資だった。公開された情報によると、1600人で、6000万元(約10億円)を投資したということだったが、業界内の専門家によると、実際には1億元(約17億円)を超える投資金額なのではないかという声もある(公式での回答はない)。しかし、投資金額が6000万元(約10億円)であろうと、1億元(約17億円)であろうと、50億元(約833億円)の興行収入からしてみると、どちらにせよ作品自体は大成功である。
『哪吒之魔童降世』は中国劇場アニメ市場のマイルストーンとも言える作品になっただろう。
医科大出身監督・餃子の心変わり―「先入観を破って、運命を変える」
アニメがヒットした後に、『哪吒之魔童降世』の監督である餃子はSNSを通じて、『哪吒之魔童降世』を製作するに至ったきっかけなどを語った。
5年前、餃子監督は自分の成長や経験になるアニメを製作することが決まった。この作品こそが『哪吒之魔童降世』である。餃子監督は幼い頃から、アニメ好きだったが、性格は規律を重視する真面目な人物であった。大学入学時には、就職先を考えて、親と同様の医科大学を選んで進学した。大学3年生の時に、同級生の紹介で初めて3D動画ソフトを手に入れた。この3D動画ソフトを手にしたことが、就職先まで見据えて大学に入学したにも関わらず、アニメ業界を目指すきっかけとなったことは想像に難くない。それからは、黙々とアニメ制作を独学で勉強し始めた。大学卒業後、アニメ関連企業への就職を目指したが、医科大出身という原因からか、就職活動は難航した。アニメ関連企業に就職ができなかった餃子監督は、3年8ヶ月の時間をかけて一人で短編アニメ『See Through』を自主製作し、第十二回日本TBS DigiCon 6(アジアの国と地域から優れたクリエイターを発掘することを目的にTBSが主催する映像フェスティバル)金賞を受賞した。そして、この実績によって、長編劇場アニメを製作するチャンスが一足飛びで巡って来た。
餃子監督がまず初めに考えたことは、現在自分が抱いている「先入観を破りたい」ということだった。「孫悟空」と「哪吒」のキャラクターに注目したが、「孫悟空」は劇場アニメ『大聖帰来』が既にあったため、「哪吒」を選ぶこととした。そうして、『哪吒之魔童降世』に登場するカッコ悪い「哪吒」のイメージキャラクターが誕生した。
5年間、66回の脚本修正、1400個のCG絵コンテ、1600人の関連事業者、そしてできた、110分のアニメ
中国アニメ業界では、大部分の製作会社で工業化水準が足りていないことは事実だ。『哪吒之魔童降世』は、彩条屋アニメ製作会社の初の標準化の流れ(脚本、絵コンテ、レイアウト、編集など)で製作されたアニメである。商業価値から見ると、『哪吒之魔童降世』は中国アニメ工業化の始まりの作品と言えるだろう。
脚本の修正は2年間で、66回
絵コンテは5000個から選び、最終的には1500個に絞った
アニメの80%はCG効果が必要なため、20社のCG会社に外注した
全部で60社以上の製作会社に外注し、関連従業者は1600人を超えて、最終的には110分のアニメが完成した。これは中国アニメ史上最大規模とも言えるだろう。
中国アニメが子供向けから全年齢層向けへ
『哪吒之魔童降世』は中国アニメのスタンダードが子供向けから全年齢層向けへと変わるための成功例として考えても良いだろう。アニメの主人公である哪吒の年齢設定は3歳だが、物事に対する思考などは15歳程度の青少年に見える。アニメは、青春期の青少年の反抗を通じて、親、もしくは知り合いの人たちに認められたいという期待を表現した。これは、中国の家庭に普遍的に存在する親子問題だからこそ、鑑賞者は身につまされる感情にさせられる。
大人の幻想や感動へのニーズは子供よりも多い。2018年、中国のアニメユーザーは3.46億人いるが、その中で、20代の消費者は50%を占めている。そして、12.3%の成長率で増や続けている。『哪吒之魔童降世』は中国劇場アニメのスタンダードが全年齢層向けに変わる始まりになるだろう。
中国神話IPが世界へ
近年、中国ではIPを中心としたPan-entertainments産業が形成されている。中国において、「哪吒」の神話物語は誰でも知っている高価値のIPだ。『哪吒之魔童降世』は、中国神話IPがアニメ化する先駆者とは言えないが、『哪吒之魔童降世』の成功は、中国神話IPがアニメ化する際のモデルとして、これからの作品を導くのに大きな意義があるだろう。
まずは脚本だ。『哪吒之魔童降世』の脚本は2年間をかけて66回も修正したからこそ成功した。原画から見ると、『紅き大魚の伝説』は『哪吒之魔童降世』に負けないほど美しいのだが、ストーリー性を鑑みると、『哪吒之魔童降世』が成功する原因が判明するだろう。
次は世界性だ。2019年8月、『哪吒之魔童降世』は北米地域、オーストラリア、ニュージーランドなどで上映した。中国国内の評価よりは低いが、文化や方言などの原因が大きいだろうと思われる。『哪吒之魔童降世』は監督が個人の成長経験を基づいて創作した作品で、中国、もしくは東アジアに特有の文化性がある。
※記事内の為替レートは『1円=0.06人民元』で計算されています。
ライター:任杰 監修:AKATSUKI