コロナウィルス脅威下での中国テレビ局の対策 – クラウドバラエティ番組

2019年末、コロナウイルスによる新型肺炎が中国の湖北省武漢市で初めて発見され、その後、現在に至ってもその猛威が衰える様子はない。2020年1月23日、湖北省の確診総感染者数は444例まで増え、感染者はほぼ全国に波及した。2020年1月23日の夜明けとともに、武漢市政府は「午前10時から、すべての出城通を閉鎖し、城内の公共交通を停止する」と発表した。これより、中国各地の「隔離」が始まった。

1月24日は中国春節の始まりであり、1月24日から1月31日は法的な休日となるが、ほぼ全ての企業では22日から休暇が始まっていた。春節期間は、親戚一同が集まる会合などを催すことが一般的だが、今年の中国では各家庭は実家に篭り「自己隔離」を実行した。しかし、祝日であるのに外出が制限され外に出れたとしても娯楽施設の類は全て閉鎖しているため、やる事がない人々は、時代に合ったテクノロジーを利用して娯楽を享受し始めた。

それは例えるのなら、クラウド麻雀、クラウド飲み会、クラウド火鍋、クラウドデート、クラウド倶楽部などと言われている。

新型肺炎問題により、春節期間中の映画は全て上映中止となっており、加えて各テレビ局で放送されていた多数のバラエティー番組も中止になった。原因としては、これらのバラエティー番組はエンターテインメン性が高すぎるため、疫病蔓延中の現在放送するには相応しくないと判断されたためである。しかし、自宅に自主隔離して過ごす民衆に真に必要なものはその「エンターテインメント」であった。

2月3日、湖南省テレビ局（中国のバラエティー番組No,1テレビ局とも呼ばれる）の上層部が電話会議を開催した。プロデューサーの劉偉も会議参加者の一人であり、劉偉は『快楽大本営』のプロデューサーである。（『快楽大本営』は1997年から放送開始し、4項のギネス世界記録を持つ中国の歴史的バラエティー番組である。）電話会議では、上層部が劉偉に「現状の疫病の状態を鑑みて、観衆にポジティブな影響が与えられる新しい番組を作り出すこと」を要求した。番組制作について、放送日は2月7日を要求された。アナウンサー、芸能人、制作チームなど関わるメンバー全員が「自己隔離」状態となっている現状、あと4日足らずの時間でどのようにして一つのバラエティー番組を制作するというのだろうか。

電話会議終了後、劉偉プロデューサーが最初に確認したことは長沙市にいる制作チームのスタッフとバラエティー番組のアナウンサーだ。結果として、40人の制作チームの中に、15人ほどの監督と3人の有名アナウンサー何炅、李維佳、杜海涛が長沙市にはいるとわかった。この時点で劉偉プロデューサーは「これなら、できるかもしれない」と思ったという。

次に、番組のテーマを決めなくてはならない。エンターテインメント性が高いバラエティー番組は疫病が蔓延している現状にふさわしくはないのかもしれないが、エンターテインメント性が低いバラエティー番組を制作しても、観衆に癒しを与えられない可能性が高い。そうして考え抜かれた末に、「興味生活+vlog+動画呼び出し」の新型バラエティー番組『Hey！あなたは何をしてるの？（原名：嘿！你在干嘛呢？）』を制作すると決定した。目的は「真実を記録する」ことだ。

そして、番組制作である。全民「自己隔離」期間中に、スタジオ内で撮影することも無理だ。制作チームはGoProを3人のアナウンサーの家まで郵送し、アナウンサー達はGoProとスマートフォンを利用して、自分たちで撮影した。もちろん、メイクアップ、服装などすべてのものはアナウンサー達が自分で準備した。撮影後に、ネットを利用して、制作チームに送る。これは「クラウド制作」とも言えるだろう。

2月7日、番組『Hey！あなたは何をしてるの？』が放送する30分前に、製作は完了した。番組の決定から放送まで50時間もかからなかった。

番組『Hey！あなたは何をしてるの？』放送後、予想を上回る反響があった。ヒットの原因は「真実」と「距離感の近さ」だと思われる。

まずは、「真実」だ。『Hey！あなたは何をしているの？』は芸能人の日常生活を記録するというものであるため、通常のバラエティー番組に比べるとエンターテインメント性に欠けるが、逆に視聴者との距離感を縮めることに成功した。アナウンサーの何炅は「普通の都市で勤務する独身者」の代表者のような存在に映り、第1期の中では、簡単なケーキのレシピを撮影した。撮影中に、レモンが必要だが、何炅は家の中を探してもレモンが見つからなかったため、レモンの代わりにオレンジを入れるといった日常的なシーンが放送されると、番組放送後には、たくさんの視聴者がケーキ作ろうと、ネットショップのバターが一時的に売り切れになるといった事態に陥った。

手作りのケーキが完成した後、何炅は湖北省襄陽市の実家に滞在する女優の袁姗姗に動画で呼びかけた。袁姗姗は中国の民衆が関心を持っている閉鎖中の湖北省の生活を紹介し、疫病に対する生活技を説明した。

番組『Hey！あなたは何をしてるの？』は近年ヒットしたvlogと同じように、芸能人の日常生活を撮影し、編集して公開する。ただし、vlogは個人、もしくは団体の運営が多いが、今回の番組は、湖南省テレビ局が自局の影響力を利用して、大勢の芸能人を集めることで実現し、芸能人とファンの距離感を縮めることを可能とした。

番組『Hey！あなたは何をしてるの？』は唯一のクラウド制作したバラエティー番組ではない。同じく湖南省テレビ局で放送中の音楽番組『歌手・当打之年（原名：歌手・当打之年）』と吹き替え番組『声がその場に差し掛かる（原名：声临其境）』の更新と撮影も『Hey！あなたは何をしているの？』のクラウド制作の真似をし、動画で呼びかけると芸能人の個々人が自分で撮影するように変更した。

愛奇芸もクラウド制作で、『宅家で歌を選択しよう（原名：宅家点歌台）』、『宅家運動会（原名：宅家运动会）』、『宅家GUESS GUESS GUESS（原名：宅家猜猜猜）』などを出品した。

クラウド制作は疫病に対する特別な撮影手段として、一時的にヒットしたが、ウィルス問題の終息とともに消えていくのか、はたまたそのまま残り続けるのかはまだ判断がつきそうにはない。