ライター:Jenny 監修:AKATSUKI
コラム
Column
『想見你』に見る、台湾ドラマの「歴史」と「復興」
「想見你」—世間の高評価を得て、台湾ドラマはようやく「復興」へ走る
先日、2020年のヒット作品であり、「焼脳」(頭を使う)ラブロマンスドラマ『想見你』(直訳:会いたい)は最終話の放送を迎え、「#想見你エンディング」「#微博」のトレンドニュースの2位に上がり、それ以外の関連話題についても盛り上がりを見せた。『想見你』は放送スタート時点から、「豆瓣評分」(中国の有名口コミサイト)の評価が9.2点に達したことで話題を呼び(7点を超えれば良質な作品と見做され、8点以上の作品は極めて少ない)、注目を集めた。その様子は最終回配信日の夜に、iQIYIのサーバーダウンを引き起こしてしまうというトラブルが発生するほどの人気である。
ストーリー
黄雨萱(ホァン・ユーシュエン)には、7年間付き合っている大切な恋人、王詮勝(ワン・チュエンション)がいる。ところが、詮勝は2017年に起こる飛行機事故で行方不明になってしまう。雨萱は詮勝のことを忘れられず2年の月日が過ぎるが、ある日、雨萱は思いがけない出来事から1988年にタイムスリップし、自分とそっくりな女子高生陳韵如(チェン・ユンルー)の体に入り、詮勝とそっくりな同級生李子維(リー・ズーウェイ)と出会う。内気な韵如は子維に片思いをしていたが、親友が韵如に想いを寄せていることを知っている子維は韵如の想いに答えることができない。ところが、中身が雨萱に変わった韵如は勇敢で楽観的で、次第に子維の目を引くようになっていく。一方、未来で陳韵如が1999年で亡くなったことを知った雨萱は彼女の死の真相を探ると同時に、子維と詮勝の関係性に気付いていく…
「想見你」ヒットの理由とは(ネタバレあり)
最初『想見你』を見たとき、恋人が行方不明になり時が経っても想いを引きずっている2019年時点の雨萱の日常生活を見て、ありきたりで代わり映えのしない普通の台湾式ラブロマンスだと思ってしまうが、雨萱が1998年にタイムスリップし、高校生の子維と出会った時にタイムスリップラブロマンスなのだと判明する。更に、その後の2003年の子維は2011年にタイムスリップし詮勝の体に入り、雨萱と出会って恋に落ちる。
つまり、『想見你』は単純にタイムスリップして過去を変えるといったラブロマンスではなく、「未来から過去へ」と「過去から未来へ」両者がタイムスリップすることでメビウスの帯となった物語が展開される。まるで「鶏が先か、卵が先か」のように、雨萱は詮勝の行方不明を調べるために過去に戻るが、過去では子維は雨萱に片思いをし、未来にタイムスリップして恋に落ち、行方不明となる。
この設定には、「高能」(衝撃)と「焼脳」(頭を使う)の声が絶えず、放送期間中に、Bilibili(動画投稿サイト)と知乎(ちこ:ユーザーコミュニティで作成、編集、運営を行う中国Q&Aサイト)でストーリーに関する議論、解説、そして今後の展開予想の投稿が止まらず、更に視聴者を引き付けた。また、陳韵如の死の真相を巡る調査は推理とミステリーの要素があり、SNSでは真犯人についての議論も沸騰した。
その他、恋とは外見なのか、魂なのかについての議論も止まらない。ドラマの中で雨萱と韵如の外見は全く同じだが、子維が好きなのは雨萱だとはっきりわかっている。二人は十数年の時間の差を乗り越え、お互いの魂に恋に落ちるが、数々の困難を乗り越えなければならない。
ストーリーや演出が良いということも当然あるが、先の展開が読めず、視聴者同士の議論が生まれる余地を与えることによってより視聴者の注目を集め、人気につながったと思われる。
台湾ドラマ史
2001年から2011年は台湾ドラマの「ゴールデン10年」と呼ばれていた。『流星花園』(2001)、『カエルになった王子様』(2005)、『ハートに命中!100%』(2008)などが、大陸や東南アジアで大ヒットしていたが、『いたずらな恋愛白書』(2011)以降、大ヒット作品はほとんど生まれなかった。その間も台湾ドラマは創作されているが、毎度同じ設定の「ツンデレ御曹司」と「貧乏なシンデレラ」パターンが続き、視聴者は「審美疲労」(綺麗だが同じものを見続けることに対する倦怠感)と呼ばれる状態であった。ジャンルが固定化している上に、資金不足も大きな問題となっており、同じ「御曹司とシンデレラの物語」でも、大陸ドラマとは比べものにならない「貧乏さ」で揶揄されるといったことも度々発生するに至った。
2000年以降の、大陸のエンターテインメントの急成長につれ、多くの台湾アイドル、俳優、監督、脚本家、プロデューサーや制作スタッフまでもが大陸へ「出稼ぎ」に行った。
例えば、当時アジアでも社会現象を起こした「F4」、「飛輪海」などのアイドルグループ、アンアン(安以軒)、ルビー・リン(林心如)、ジョー・チェン(陳喬恩)などの人気女優、ツァイ・カンヨン(蔡康永)、シュー・シーディー(徐熙娣)などの名司会者、チェン・ユーシャン(陳玉珊)などの監督といった業界のスター達は現在ほとんどが大陸で活躍している。
それゆえ、先輩達の後ろ姿を追いかけ、ヒット作に出演し、知名度を上げたのち大陸に抜擢されるのが現在の台湾の新人俳優達の「昇進」の夢となった。『あの頃、君を追いかけた』(2011)のクー・チェンドン(柯震東)、『私の少女時代』(2015)のワン・ダールー(王大陸)などはそんな夢を叶えた者達となる。
実際、今回の『想見你』によって中国で一躍有名となったグレッグ・ハン(許光漢)は『想見你』の放送終了直後に、中国青春映画『你的婚礼』(2018年に公開された韓国ラブロマンス映画『君の結婚式』のリメイク版)のキャストに抜擢されたと発表し、大陸へ「北上」することが決まった。
上記のような理由から、台湾ドラマは一蹶不振となり、「大制作+名俳優」の大陸ドラマが逆輸入され、台湾テレビ業界でドラマ市場のシェアを奪った。
台湾ドラマの「復興」
ところが、2019年に入ってから、台湾ドラマは再び話題となり、大陸で注目を集め始めた。『悪との距離』(原題:我們與惡的距離)はここ10年で最高の台湾ドラマと称賛され、豆瓣評分は9.5点を記録し、『俗女養成記』は9.1点を記録した。『想見你』を加えて、わずか1年間で3作品が9点以上の評価を獲得し、この結果が非常に珍しく異常なことから、台湾ドラマが復活するのではないかと言われるようになった。かつて、台湾ドラマにあった馬鹿馬鹿しいイメージが一変し、ようやく台湾ドラマは「革命期」に入るではないかと期待を寄せられている。
他方、台湾ドラマの急激な「変身」の裏には、悪循環に入っていた台湾ドラマ制作に、「救世主」が現れたからである。近年、HBO、Netflix、Foxなどの海外のニューメディアが台湾に上陸し、2017年だけで三社が投資及び制作したドラマは十数本、2019年では20本近くある。また、韓国のLine TVの作品入れると、全年で約40~50作品を創作する台湾ドラマ市場の半分が占められている。
三社は資金力も制作力もあり、クオリティも高水準だ。特に近年、世界各国のスタッフとの共同制作を通じて「斬新なチャレンジ」を行うことが特徴で、早くも台湾でも様々な試みが始まっている。その結果、HBOが初めて制作した「通霊少女」(2017)は『ブラック&ホワイト』が7年間維持してきた最高視聴率を更新した。『悪との距離』はHBOと台湾公視との共同制作で、今回の『想見你』もFOXと台湾三鳳、華聯三社で共同制作した作品である。
三社が台湾で様々な試行錯誤をしているのは、大陸に入るためには、審査を通る必要があるからである。中国大陸においては、広電総局のセンサーシップがとても厳しく、視聴者にニーズがあるものの、「タイムスリップ」、「鬼」、「社会批判」、「高校生恋愛」などは厳しく検閲される。「ゴールデン10年」が過去の栄光となってしまった台湾ドラマの中で、近年の作品は大陸で注目を集め、これからも増えていくと予想されている。中国大陸ドラマとの「差別化」と「優質化」はこれからの台湾ドラマの「復興」に重要なポイントとなるだろう。