ライター:張 ケン 監修:AKATSUKI
コラム
Column
独自の一派を形成した、ネット放送トーク番組『奇葩説(変わり者のトークショー)』
2020年1月に、『奇葩説(変わり者のトークショー)』は第6シーズンの最終回を迎えた。第6シーズンの放送開始から完結まで、番組の人気は上昇し続け、ネット全体で合計556の人気検索ワード・ホットリストに入り、累積118回の人気指数ランキングでトップとなった。『奇葩説』は中国大陸におけるこの冬、最も人気のあるバラエティー番組の1つであると言えるだろう。
【『奇葩説』:中国初のネット放送弁論トークショー】
『奇葩説(変わり者のトークショー)』は、ここ数年、中国で流行しているインターネット放送番組で、革新的なディベート番組であるとの評価を得ている。2014年から2019年まで六つのシーズンを連続して放送しており、今後も新しいシーズンの制作を予定している。
中国語の「奇葩」という言葉は、本来「数少ない貴重な花という意味があり、珍しくて貴重な物や稀に見る優れた人を指す言葉」(人民中国,2013)であり、日本語の「奇特」と似た意味を持つ、ポジティブな意味の言葉である。しかし、インターネットの普及によって、「奇葩」という言葉はマイナスの意味や自嘲の気風を帯びるようになり、言動や性格が変わっている者や不可解で受け入れ難い者にも指すようになった。
「奇葩説」の字句の表面上の意味については「変わり者たちが発声する」ということである。『奇葩説(変わり者のトークショー)』 という番組こそ、多様な意見を見ることができるプラットフォームであると言える。
この番組の形式は、公開オーディションにより全国各地から「奇葩」な方々を弁士としてかき集め、主にディベートの要領で、関心のある話題について論じ合うというものである。
弁士たちは、自分の考えにより立場が分かれ、チームを結成する。現場にいる観衆は弁論会の開始と終了の時点でそれぞれ1回ずつの投票をし、自分の支持する立場を選ぶ。その二回の投票の結果の差に基づいて弁論チームの勝敗を判定する。そして、現場にいる視聴者の投票から得た勝負結果は、論題の立場に対する肯定というよりは、むしろ、弁士たちの働きぶりに対する肯定の表れといえよう。
この番組を通じて、多くの弁士たちが大衆に知られるようになった。彼らは独自のアイデアと優れた言語技術と高い論理的な思考力を兼備している。
【ネット番組の模範としての「奇葩説」:趣味性、独創性、充実性】
ネット番組としての「奇葩説(変わり者のトークショー)」が百度(Baidu)傘下の大手動画配信サイト「愛奇芸(IQiyi)」により配信されている。インターネット放送トークショーは、従来のテレビトーク番組より、「個性的な視点」、「言語内容の質」、「選手の瞬発力」などをさらに強調する。
今まで、テレビ放送のトークショー番組の内容は、しばしばインターネットに基づいて取材されていた。それこそ、インターネット番組は、弁士の見地や言語等の独創性に対して、より高い標準を持っている。例えばテレビ番組の単なる「二番煎じ」を放送したとしても、観客を引き付けることは難しいであろう。
そこで、インターネットコミュニケーションにおけるオピニオンリーダーには、より多くの特性が求められる。例えば、「奇葩説」の弁士らは、観客の注意を引きつけると同時に論理的に主張を述べたり、目覚ましい言葉を発するのを目指すだけでなく、観客の理性的な思考を導いたりする。
ネット番組としての「奇葩説」は、インターネットコミュニケーションの秩序を守り、「価値観を持つ必要はあるが、価値観を販売する必要はない」という番組制作の理念に沿っている。「奇葩説」では、論題に対する肯定と否定の立場を十分に示して、弁士たちをその場で思う存分に討論と交流をさせる。この過程で、観衆は自分にとって合理的な、或いは根拠があり、役に立つ情報を自由に選んで受け入れることができる。番組の制作者である馬東氏は、可能な限り多くの見方を大衆に示させたいと語る。そして、「奇葩説」にて、肯定と否定の立場両方に対して余地を持たせることを主張し、最終的に標準的な解答も出さないという。
【「奇葩説」のIP価値】
「奇葩説」は2018年12月1日に「2019愛奇芸尖叫之夜」の『年度IP綜芸節目(年度IPバラエティー番組)』を受賞した。この番組は趣味性と充実性を兼備するため、自然とただのファンとは異なる独自の一派を形成し、著名なIPとしての地位を打ち立てた。
「奇葩説」は「愛奇芸(IQiyi)」に高額の広告効果とブランド効果をもたらした。具体的には、「奇葩説」の第1シリーズは、協賛金が5,000万元(約8.3億円)を獲得し、インターネットバラエティ番組の中で一位となった。第1と第2シーズンのクリック数は11億を超え、第1と第2第3シーズンの総放送量は17億を超えた。
また、「奇葩説」の派生番組も多く制作された。例えば、『奇葩大会』、『奇葩ICU』、『黒白星球』、『好好説話』等の番組がある。特に、弁舌の才の養成講座である『好好説話』は、中国のインターネットを通じた音声プラットフォームアプリである「喜馬拉雅(シマラヤ)FM」の有料放送音声番組として、2016年6月6日から販売が始まった。年額198元(約3,300円)で、毎日「奇葩説」の名弁士たちからの6~8分の長さの音声講座を放送するという形式である。配信開始から24時間で、25,731件を販売し、売上高は500万元(約8,333万円)を超え、配信してから10日間、売上高は1,000万元(約1.6億円)を超えた。
【まとめ】
「奇葩説」は、近年の中国大陸において滅多にない高品質かつ高いIP価値を持つネット放送バラエティ番組である。この番組は、弁士に多角的な観点や見地を表現することについて檄を飛ばし、視聴者には各観点に寛容に対応することを奨励していた。つまり、第1シーズンから第6シーズンまで、「奇葩説」の基幹は変わらず、番組の核となる価値観はずっと「包容」と「面白さ」というものである。
「奇葩説」はディベートの形を借りて、現在の若者の価値判断を検討する。だが、黒か白かの議論ではない。この番組の目的は、良いか悪いかや是か非か等を弁明することではなく、弁論の場で価値観を受け渡すことである。「奇葩説」は多くの元素と力が集まっているプラットフォームとして、視聴者に自分の考えを通して自分の判断と立場を確立することを促す。